貴様、さてはIT 弱者だな?
ナナシはようやく合点がいった。
なるほど、そういうことだったのか……
他に女子が行きたがらない
女子一人では行きづらい
俺が興味を持ちそうなジャンル
確かにすべて辻褄が合う
まぁ、一つ難を言えば
こんなの男でもそうそう来たがらないといこうことか
この異様な非日常空間は
男女の性差別無く平等にドン引きさせる、
ある意味ジェンダーフリーと言っていいだろう
いやまぁ、ビッチキラー先輩が居る分
やはり女子の方が気まずいのかもしれないが
下ネタに走っている訳でもないのに
この溢れ出る変態集団ぶり、その破壊力は
もう見事と言うほかない
さらに妄想探偵ナナシの迷推理は続く。
おそらく、今回のからくりはこうだろう
クラスのLINEグループで部活の話となり
個人情報保護部はヤベエという話が出た
それを見たクラスの女子は当然行きたがらないし
はじめから興味を持っていたナナミは
一人で行くのがコワくなった
そこでクラスのLINEグループに参加しておらず
個人情報保護部がヤベエことを知らない俺を
部活見学に誘ったということだろう
今回もまたこの女の策略にしてやられた訳だ
今回は珍しくいい線を突いている、
ナナミがそれ程までに
計算高くないということを除けば
ほぼ正解と言っていい。
いや、もう少し好意的に解釈するならば
この女は俺がこの部に相応しい変人だと
思ったということか……
この変態集団に参加しても
まったく違和感の無い
類稀(たぐいまれ)なる変態の可能性を秘めていると……
うん、これは、あれだな
ポジティブに考えても、ネガティブに考えても
詰んでるパターンの奴だな
-
「チッ」「ガンッ」
ビッチキラー先輩もついに手が痛くなったのか
いつしか足で机を蹴るようになっていた。
「他に質問はあるかな?」
もうそろそろ終わりであることを匂わすマスクマン二号。
「先輩達が真摯(しんし)に
個人情報保護について考えおられるというのが
よく分かりました……」
だが、この人達の姿を見て
ナナシにはどうしても腑に落ちない、
聞かずにはいられないことがあった。
「最後に一つだけ、
どうしてもお聞きしたいのですが……
完全に顔まで隠してしまった場合、
中の人間が入れ替わっていても
誰にも分からないのではないでしょうか?」
そう言い終わった直後、マッスル部長から
ただならぬ威圧感を感じるナナシ。
まずい、この質問は
もしかしたら地雷だったか?
「もちろん、
マッスル部長のような肉体の持ち主は
この学園に二人といないでしょうが、
他の方々はどうでしょう?」
そのフォローに気を良くしたのか
マッスル部長は覆面越しに不敵な笑みを浮かべる。
「貴様、さてはIT弱者だな?」
その言葉にギクリとするナナシ、
確かにLINEもSNSもやらない自分は
ITに明るい方とは言えない。
「今や、指紋認証、網膜認証、声帯認証、
そうした本人確認の方法はいくらでもある
本人確認の為だけに素顔を晒す時代は
いずれ終わりを迎えるだろう
我々はそうした来るべき時代の礎となるべく
こうした実験的な試みをしているのだ」
鼻息も荒くドヤ顔で
延々と語り続けるマッスル部長。
なるほど、
指紋認証、網膜認証、声帯認証、
確かにそうした手段があるのか
だが、どれもフル全身タイツ先輩は
アウトだと思うんだが……
やっぱりあの人だけは単なる性癖なのでは
-
「ナナシくん、おはよう!」
翌朝の通学途中、
ナナミに声を掛けられるナナシ。
この女、ついに一人で
三回を使い切った、だと!?
しかもたった三日で
貴様、これから先の一年間
女子のいない果てなき荒野を
独りでさまよい続けることになる
俺の気持ちを考えたことがあるのか?
いつものようにグダグダ考えているナナシ、
だがそんなことにはお構いなく
ナナミはグイグイ話し掛けて来る。
「ねえねえ、
一緒に個人情報保護部入ろうよ?」
「なんか面白い先輩ばかりだったし、
すごい楽しそうじゃん!」
『楽しそうじゃん!』、だと!?
クソッ、この女
何言ってやがるんだ?
頭おかしいのか?
まぁまぁ地獄だったろうが!
昨日だけでビッチキラー先輩に
何十回舌打ちされたと思っているんだ?
下手すると百回に到達する勢いだぞ?
こいつのメンタルは鋼鉄製なのか?
アイアンハートなのか?
もしくはドMか? ドMなのか?
ビッチキラー先輩が舌打ちする度に
背筋に電流が走ってゾクゾクするとか
そういう性癖の類(たぐ)いか!?
朝っぱらからいろんな意味で
エキサイトしているナナシ。
しかも背後から
再び誰かが声を掛けて来る。
「ナナシくん、ごきげんよう」
振り返るとそこには
微かに笑みを浮かべた美女が立っていた。
非常に長い黒髪ロングを一本にまとめて結い、
気品溢れる清楚なお嬢様風の美女、
おそらく上級生であろう大人っぽさを備え、
どこかのご令嬢といった雰囲気がある。
知らない美女に話し掛けられる、だと!?
とりあえず挨拶した方がいいのだろうが……
こいつ、一体誰だ?
こんな美女に知り合いなどおらんぞ
いや、それ以前に
知り合いに女がいない!
そもそもこの三年間で
話したことがある女は片手で充分こと足りる
しかも母親と
この三日前にはじめて会ったナナミを入れてだ
つまり、女の顔を忘れられる程に
女と接触していないのだ
そんな俺が知らないとなると
もうそれはまったく知らない女ということで
問題はないだろう
ここはもう、男子向けではあるが
相手は自分のことを知っている風なのに
自分が相手を思い出せない時の技を使うしかあるまい
相手の名前には決して触れない
返事はすべて相槌系
「へぇ」とか「そうなんだぁ」が望ましい
気のない返事をしてのらりくらりとやり過ごす
完璧ではないか
まぁこれは親や先生に怒られた時にも応用が効く
便利な技ではあるがな
「……あぁ、あぁ、
おはよう、ございます……」
しかしこれは一体どういうことだ?
今しがた年に三回女子と話せる契約は
満了したばかりだぞ
もしかして……
高校生となって心身共に成長した俺は
一年の内に女子と話せる回数が増えたのか?
もうそれはゲームのキャラが
レベルアップすると
技を使える回数が増えて行くかのように
おそらく……
少なくとも年に五回は話せるようになっているだろう
そんな本当にしょうもない
クソみたいなことを一瞬で考えていると、
美女に向かってナナミが挨拶をした。
「ビッチキラー先輩、
おはようございます!」
……ビッチキラー先輩、だと!?
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