部活動、だと!?

部活動、だと?

「……それから、部活動についてだが」


担任の男性教諭は

二日目のホームルームでそう言い出した。


「本学園では、

部活動は強制参加ではないが、

積極的に参加することが推奨されている。


まぁ、大学への推薦を希望している者は

入部しておいた方がいいだろうな……」


  部活動、だと?


  なんということだ……

  部活動とは、言うならば

  趣味嗜好の看板を

  背負って歩いているようなもの……

  パーソナル情報がダダ漏れではないか


  例えば、よく電車内で見かける

  練習試合の遠征帰りと思われる運動部の集団、

  チームTシャツやジャージ、バックなどには

  堂々と校名が入っているし

  下手をすると名前までもが入っている。

  まるで個人情報と趣味嗜好をセットにして

  見せびらかしているようなものだろう



  しかも部活に入部したが最後

  学生生活の内でかなりの時間が

  部活に費やされることになる


  放課後、朝練、昼練などなど

  生半可な気持ちでは到底出来るものではない

  部活動とは部活道でもあるのだ


  強豪校の運動部などは

  もはや部活をしに学校に行っている者も多い



  文化部でも吹奏楽部や合唱部などは

  体育会と遜色ないレベルだと聞く

  校内で一番体力があるのは

  吹奏楽部員という冗談があるくらいだ


  他の文化部にしてもガチるのであれば

  限られた高校生活の貴重な時間を

  消費することになるだろう


  とどのつまり部活動とは、自分は今

  これに賭けているという証のようなもの


腕組みをして考え込むナナシ。



  一方で部活に入らなかった場合、

  謂わゆる帰宅部であった場合だが


  一般的なイメージとしては、まず最初に

  運動には興味がないのだろうなと思われる


  自分は運動音痴なので

  全く気持ちを理解出来ないが

  世の中には、体を動かしたい勢という

  謎の勢力が一部いるらしい


  そういう者達は体が動かせれば何でもいいので

  そこまでハードではない運動部に

  適当に入ることもあるという噂だ


  家に帰ってゲームをする、オタク活動をする、

  もしくはバイトで金を稼いで

  欲しい物を手に入れる

  帰宅部のイメージ的にはそんなところか



「ナナシくんは部活どうするの?」


ホームルームが終わるとすぐに

前の席に座るナナミが

振り返って声を掛けた。


  クソっ、この女


  美少女の分際で

  まだこの俺に声を掛けようというのか


  しかも、年に三回しかない女子と話せる機会

  その二回目を入学二日目で早々に使って来るとは

  俺から他の女子と接触する機会を奪う気なのか?


「あたし、

見学に行きたい部があるんだけど、

女子一人では行きづらくて……


ナナシくん一緒に行ってくれないかなぁ?」


「女子の友達と

一緒に行ったらいいんじゃあないのか?」


「ちょっと、他の女子で

行きたがる子があんまいなくて……


絶対ナナシくんも

興味あるんじゃないかと思うんだけどなぁ」


  クソっ、この女


  昨日ハニートラップで

  俺のことをハメたのを忘れたのか?

  よくそんなことが言えたもんだな

  そんな可愛らしい口で


  他の女子は見学に行きたがらない……

  女子一人では行きづらい……

  しかし俺は興味があると思われている……


  さては、こいつ俺に対して

  軽くdisりを入れて来ているのか?


  それとなく遠まわしに相手を蔑(さげす)む

  本来あるべき姿の美少女らしいではないか


どれだけ美少女に偏見を持っているのやら。



  しかもそんな誘い、

  もはや地雷臭しかしない


  いや、待て

  これはどう考えても、また罠だろ


  俺をおびき出すための作戦

  校舎の裏とかにおびき出されて

  よく分からない不良とかヤンキー、

  もしくはチャラ男とかパリピにボコボコにされる

  または金を巻き上げられる

  もしくはその両方


  クソっ、この女、美少女どころか

  とんだ 美ッチ少女ではないか


とりあえずナナミは一度

ナナシのことを訴えた方がいいと思う。


「だめ? かな?」


  クソっ、この女

  またプロJK作戦を使うというのか?


  スキル『微妙に許してしまうJKの甘え』を

  ここでも発動させるとは、こいつ、手強い……


  そんな可愛い顔で、

  甘い声を出してもダメだ、ダメだ……


そう思いつつも、

また目の前に居る可愛い生き物の願いを

叶えてあげたくなってしまったナナシ、

結局、一緒に部活見学に行くことになる。


-


放課後、ナナシとナナミは

二人で部活見学へと向かう。


まだ授業が終わって間もないというのに、

グランド付近では

野球部やらサッカー部やらの運動部が

既に部活の準備をはじめている。


通りすがる運動部員達の

チームTシャツ、ユニフォーム、

担いでいるバックを見てナナシは驚く。


  『秘密』、だと?


先程、ナナシが疑問を呈していた

本来校名などの表記が入るあろうすべての箇所に

デカデカと『秘密』と記載されているのだ。


  これは、一体、どういうことなのだ?

  単純に学校名は秘密だから『秘密』なのか?


  しかしこれでは、無印○○が『無印』と謳いつつも、

  すでに『無印』というブランドであるように


  『秘密』イコールうちの学校と

  バレバレなのではないのか?


「ナナシくん、すごくない?

堂々と秘密って宣言するなんて、イカしてるよね!」


一緒に居たナナミの一言にハッとするナナシ。


  なんということだ……

  この女の一言で

  鱗から目が落ちた、

  もとい目から鱗とはこのことだ


  そうなのだ、今までは秘密というのは

  どこか後ろめたいことがあるような

  コソコソとした暗さと陰がつきまとう、

  そんなイメージが拭えなかった


  しかし今は、個人情報保護法が出来てからは、

  堂々とこれは秘密だと言い切っていいのだ


  そう、それはまさに個人情報保護という権利!

  プライバシーの保護に他ならない!


  まさに我が学園の理念そのもの

  この『秘密』の文字こそが

  この学園の魂そのものだったのだ!


そのことに自分より先に気づいたナナミに

感嘆するナナシ。


  なんということだ

  この女、やはり頭の賢いプロJKであったか

  もはや俺の手には負えないのもかもしれん


  ふっ、いいだろう……

  今日のところは俺の完敗だ……

  ヤンキーなりチャラ男なりに

  素直にボコられてやろうではないか

  さあどこへなりとも俺を連れて行くがいい


そんなネガ妄想爆発のナナシを他所に

ナナミはそそくさと部室塔に入って行く。


-


「あ、ここ、ここ」


目的の部室を見つけたらしいナナミ、

その部室のドアに貼られている部室名を見て、

ナナシは思わず心の叫びを口に出してしまう。


「『個人情報保護部』、だと!?」


「ナナシくん、昨日話した感じだと、

個人情報保護とか真剣に考えてるぽかったし、

きっと興味あるんじゃないかなと思って」


  ま、まさか、これは

  今回は俺が間違っていたということなのか?

  もしかして俺が謝る展開なのか?


  ……い、いや、まだだ、まだわからん

  ここからまたどんでん返しをくらう

  パターンの奴かもしれん


まぁ、こいつが

女子と年に三回しか話せないのは

こういうところなのであろう。



部室をノックして、

おそるおそるそーっと扉を開けるナナシ。


しかし目の前には扉一杯の肉の壁、

覆面を被り制服を着た

まるでプロレスラーのような

ガタイをした男が立ちはだかっっていた。


  マ、マスクマン、だと!?


  クソっ、この女


  やはりましたしても

  この俺をハメたというのか?


  不良、ヤンキー、チャラ男、パリピ、

  想定していたどれよりも

  本格的にヤベエ奴ではないか


  なんなのだ、この立ちはだかる肉の塊は!

  こんな丸太のような腕で殴られたら

  普通に死ぬぞっ


  そもそもなぜ

  この学園に覆面レスラーがいるのだっ!


ナナシ、絶対絶命のピンチ……なのか?





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