クラスのLINEグループ、だと!?

「そもそもなんでお前は

俺のLINEが気になるんだ?

俺と個人的にLINEしたい訳じゃないだろ?」


話の矛先をそらそうとするナナシ。


「そ、それはもちろん」


速攻で否定するあたり

やはり現実はそんなに甘くはない。


「クラスのみんなで

LINEグループを作ろうって話になっててね」


  クラスのLINEグループ、だと!?


  クソッ! この女


  世の中には知らない方が幸せなことが

  どれぐらいあるのか分かっていないのか?


  その存在を知ってしまった以上、

  参加するも地獄、しないも地獄、

  どちらにしても地獄しか待っていないのだぞ!


いや、聞いたのはお前なんだが。


  参加した場合


  なんだか微妙な気のつかわれ方をしている


  みんな言いたいことがあるっぽいのに

  聞いてみても、黙ってしまって

  誰も何も言わない


  なんか遠まわしに自分のことを

  暗喩や隠語でdisられているような気がする


  そんな気まずい空気が

  スマホの画面とテキストだけなのに

  おもいっきり伝わって来てしまうおそろしさを

  お前は味わったことがないのか?


確かに話し言葉と違って感情が分からないので

テキストだけではポジティブにもネガティブにも

受け取ることが出来る、

そのためみんなスタンプなどを

駆使して表現していたりするのだが。



  参加しなかった場合、

  噂のクラスLINEグループで

  どんな話がなされているのか

  気になって、気になって、仕方がなくなる


  自分だけハブられているような疎外感

  これは仕方ないにしてもだ……


  楽しい話しで

  盛り上がっているだけであれば、

  まぁいいだろう


  だがおそらくは参加していない奴の

  悪口、罵詈雑言が書き並べられるに違いない


  『これはあいつには黙っていようぜ』

  そう誰かが言い出す、

  これもまだマシな方とも言える


  『あいつ騙してやろうぜ』

  これが一番厄介、危惧される事案だ


  一年間に渡り延々と

  だまされた大賞の超大作ドッキリを

  仕掛けられているようなことになるのだぞ?


  これから一年間俺は

  もしかしたらクラス全員に

  だまされているのではないか?

  という前提で考えなくてはならなくなる


  クラスメイト全員に騙されているかもしれない

  そんな疑心暗鬼の心境で

  一年間過ごすことを考えてみろ!


  ハッ! もしかすると

  そうやって俺のメンタルから

  病ませて行くという戦略なのか?


ここまでこじらせると

ある種の才能と言ってもいいだろう。



「もうクラスの大半が登録してるんだよ」


  もうすでに存在しているという

  クラスのLINEグループ……


  今この瞬間にも

  貴様とこうして話していることで

  物凄い勢いで俺への罵詈雑言、

  ヘイトが書き込まれていることだろう


  クラスのみんなが

  もし今 LINE の通知音をオンにしていたら

  この場はブルブル、ブルブル

  とんでもなくうるさくなるところだった


  『ナナシ、キモイ』

  『ナナシ、シネ』

  ねたみ、そねみから生まれたそんな罵声が

  読むのが追いつかない程の速さで

  LINEに流れて行く様が

  まるで目に浮かぶようではないか


  そんな状況で俺が参加なんかしてみろ?

  一瞬で誰も何も言わなくなるぞ


  貴様も美少女だという立場をもっとわきまえて

  話しかけられる相手の立場も考えろ

  もう既にクラスの人気者であるという自覚が足らん!


親切に誘ってくれているのに

こんな言われようで

美少女ナナミも可哀想というものだ。



「田中公平くんが、

ホームルームはじまる前に

言い出したんだけどね」


  田中公平、

  また田中公平なのか……


  名前を知ってから

  まだ数時間しか経っていないというのに

  どれだけ俺の運命に立ち塞がるというのだ

  田中公平は


  もしかしたら俺に田中公平の波が、

  ビッグウェーブが来ているとでも言うのか?

  

  俺はこれから先もずっと田中公平の陰に

  怯えて暮らさなければならないのか?


  しかし、きっちり本名の田中公平呼びとは

  この女も容赦がないな



「ナナシ、学園内では

スマホいじるの禁止だからな」


背後から声がして振り返ると

そこには担任の先生が立っていた。


「これは没収だ」


教師はそう言うと

机の上にあったスマホを取り上げる。


  昨日手に入れたスマホを

  早速没収されている、だと!?


「放課後、職員室に取りに来るようにな」


ナナミはすでに隣の席の女子と

楽しそうにおしゃべりなどしている。


  こいつ、逃げやがった……


  そうか、そういうことか……


  これははじめから壮大な罠だったのだ

  俺からスマホを取り上げるための……


  LINEを交換しようと持ちかけて

  巧みにスマホを出させて

  担任に没収させる

  はじめからそれが狙いだったのか


  すべては最初から仕組まれたこと、

  用意周到に仕掛けられた罠だったのだ



  も、もしや……クラス全員、グル、なのか?


  すでにクラスのLINEグループで

  全員で俺をだますことが決まっていたのか?

  早速俺はだまされた大賞に

  ノミネートされてしまったのか?


  いや、そうだとしたら辻褄が合う、

  今現在進行形で

  クラスLINEが盛り上がっているらしいのに

  スマホを没収されたのは俺だけ

  つまりこれはクラス全員が

  口裏を合わせたからに違いない


陰謀論者というのはこんな感じなのだろうか。

ハッキリ言ってしまえば、

この手の大人数グループは

誘って来る人の楽しそうな口ぶりとは裏腹に

得てして大して盛り上がらないもの、

きっと人数が多過ぎるのだろう。


ナナシ本人が言っていた通り、牽制し合ったり

いろんな人に気をつかわなくてはならないため、

当たり障りのないことしか言えなくなる。



ナナシは友達と楽しそうにしている

ナナミを見つめて震える。


  しかし、この女、絶妙なタイミングで

  オフサイドトラップを仕掛けやがって


  これはもしかしてアレか? アレなのか?

  これが噂のハニートラップというやつなのか?


  クッソ、俺を罠にハメるためにそこまでするとは

  この女、可愛らしい美少女の皮を被った

  とんでもないビッチだったということか

  なんとおそろしい女だ……


こうしてクラスのLINEグループに入りそこねたナナシ、

早々に誰も使わなくなった

実態のないその存在に怯え、

震えて眠ることになるのであった。




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