こいつ、さては悪魔か!?

「うそぉ、絶対、LINEやってるよぉ」


「いや、やってなどいない」


美少女ナナミは、LINEをやっていないと

言い張るナナシを問い詰める。


  クソッ、この女しつこいぞ


  こんな可愛らしい美少女が

  俺個人とLINE交換をしたがる……


  そんなことは、絶対にありえん!


  そこだけは胸を張って言ってもいいだろう

  よく訓練された陰キャを

  舐めるなと言わせてもらいたい


もはやドヤり方もよく分からない。


  となると……

  ははーん、さては、やはり勧誘だな?



「だからだな、

個人情報保護主義者として目覚めた今、

LINEはアンインストールしてしまったのだ」


ナナシに冷たくあしらわれて、

しょんぼりしている美少女ナナミ。


「そっか、残念だなぁ……」


  今、俺はホッとしている、

  間違いなくホッとしている、

  だがその反面、なんなのだ

  このモヤモヤする気持ちは


  目の前にいる可愛らしい

  小動物のような生き物が

  明らかにがっかりしている


  その原因は自分にあるということになっている


  なんだと言うのだ、この罪悪感は

  そして自分に対するこの嫌悪感は

  

  ただ断っただけだと言うのに

  この俺の方が悪い感は一体どうすればいいのだ?


  声をかける側には責任はないのか?

  相手を選んで声をかけるという選択肢もあっただろう


  そうだ、他人と絡むといつもそうなのだ


  なんとなくモヤモヤ、気まずい感じで終わり

  残されるのは自己嫌悪とストレスだけ


  だから他人と絡むのは嫌なのだあああっ!


ナナシの心の叫び、

だがまぁ心の中で叫んでいる分には実害はない。



  しかし、しかしだ……

  絶対に教えたくないと思う反面、

  この可愛い生き物の願いを

  叶えてやりたいという気もしてきている


  事実、今、俺の震える手には

  スマホが握られている……


  ダメだ、ダメだっ

  ここで信念を曲げる訳にはいかん……


  俺は個人情報保護主義者として

  生きて行くと決めたのだから!


忸怩じくじたる思いで逡巡しゅんじゅんするナナシは

震えるその手を静かに机の上に置いた、

スマホを握ったままで。


  そうだ、それでいい

  それでいいんだ……


  名も知らぬ可愛い美少女よ、

  俺の一年に三回しかない

  女子と話せる機会の内一回を

  お前に捧げたのだから

  それで許してくれないか?


心の中で叫んでいたと思ったら

今度は自分に酔いはじめるナナシ、

目を閉じて心の中でなにやらポエムっている。


-


「ほら、やっぱり、LINE入ってるじゃん」


ナナシが独りで自分に酔っている間、

美少女は机に置かれた

ナナシのスマホ画面を勝手に覗き込んでいた。


  他人のスマホを勝手に見る、だと!?


美少女ナナミはほっぺたを膨らませて

おこ顔でLINEのアイコンを指差している。


  な、なんなんだ、こいつは一体


  こいつ、さては悪魔か!?


  さっきまでの同情を買うようながっかりぶり、

  しょぼくれ感は演技だったとでもいうのか?


  はじめから俺に同情させて

  LINEを聞き出す気満々だったのか?


  まさかそこまでして俺をハメる気だったとは……



「人のスマホを勝手に見るなよ」


「ごめんごめん、

だって気になるんだもん」


謝ってはいるがノリは非常に軽い、

舌を出してテヘペロしている。


  こいつ、さてはプロだな?

  JKのプロだろ、こいつは


  自分が若くて可愛い存在だと分かっていて

  大それたことはしないが

  ちょっとだけワガママを言う範囲を広げて

  JKの甘えという立ち位置で押し切ろうとする


JCと年に三回しか喋らなかった奴が

まさかJKを語りだすとは。


  クッ、しかしながらだ、

  他人にスマホを覗き込まれるとはなんたる失態

  個人情報保護主義者にとっては万死に値する


  いくら昨日入学祝いに買ってもらったばかりで、

  覗き見防止の保護シートを

  まだ貼っていなかったと言ってもだ


  初期設定のままでロックされるのに

  時間が掛かると言ってもだ


  だが今はそこよりも

  どうやってこの窮地を乗り切るかだ……



「……ああ、それは……家族専用、LINEだ」


美少女ナナミの追求に

口をついて出たナナシの言葉がそれだった。


「ええ!? なにそれ?

そんなの聞いたことないよ」


  まぁ、そうだろうな、

  俺も今はじめて聞いたからな……


「もー、そんなの初耳だよぉ、

ちょっと笑っちゃったじゃない」


完全に苦し紛れの嘘だと相手には気づかれている。


  先程の自己紹介から察するに

  こいつは頭のいいプロJKに違いない

  嘘だというのは当然バレているだろう


  しかし今はその嘘を押し通すしかない

  嘘に嘘を重ねて、整合性がなかろうが、

  ボロが出まくろうが

  本当だと言って突っぱねるしかない


  人にはみな譲れないものがある

  絶対LINEは教えないというポリシーのため、

  俺は甘んじて変な奴だという誹(そし)りを受けよう


まぁ、変な奴というのはむしろ事実だから

そこはそんなに気にしなくてもいいだろう。


「家族宛に送るLINEを間違えて

友人に送ってしまったことがあってだな、

プライベートな情報を

知られてしまうという大惨事が起きたのだ」


「さすがにそれは

危機管理能力が足らないだろうと猛省して、

今は家族としか

LINEは使わないようにしているという訳だ。

だからこれは家族専用LINEで間違いはない」


咄嗟(とっさ)にしては

まあまあそれなりの言い訳が出来たのでないかと

ナナシは内心満更でもない。



  ふっ、よく考えてみれば……

  友達とかいないんで

  元から家族専用LINEみたいなものだったな


  あぶない、あぶない

  あやうく大事なことを忘れるところだった


「ええー、本当かなぁ?

今時そんな高校生いるかなぁ?」


当然ナナミはまだ半信半疑である。


  よく訓練されたぼっちを

  舐めるなと言わせてもらいたい


  なんせ俺のは、セルフ家族専用LINEだからな


「ああ、まぁ友達いないからな」


「あ、なんか、ごめん」





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