LINE交換、だと!?

LINE、だと!?

燃え尽きて真っ白な灰になったナナシ。

しかしまだこれだけでは

過酷な入学初日は終わらなかった。


ホームルームが終了した後、

前席の美少女が突然振り返って

ナナシに話しかけて来たのだ。


「ナナシくん、だっけ?」


  俺が美少女に話しかけられる、だと!?


  貴様、先程の仕打ちだけでは飽き足らず、

  まだ俺に何かトラップを仕掛けようというのか?


  女生徒に話し掛けられるのは

  一年に三回までと決まっているのだぞ?

  その三回の内の一回を

  入学式初日でもう使って来るというのか?


  これでは残り二回しか

  残されていないではないか……

  なるほど、早々に三回を使い切らせて

  俺を一年間女子と喋れなくさせ  

  孤立させるという作戦か


こいつは一体どんな中学生時代を送って来たのか。


しかし実際にナナシが

一年間で女子と喋った回数は

三年間毎年三回以内ぐらいのものであった。


ちなみに

自分からは女子に話しかけられないので、

女子から話しかけられた回数イコール

女子と話した回数となる。


  まぁ、例え三回の内一回だとしてもだ

  入学早々、

  美少女に話しかけられるというのは

  悪い気がしないでもない

  めちゃめちゃキラキラ輝いているし

  そこはかなとなく

  髪からいい匂いがするではないか


なんだかんだ言って

照れて顔を赤くしているナナシ。


  いかん、ここで油断する訳にはいかない

  この女にはさっきも

  出し抜かれたばかりではないか


  最初に好感を持たせて上げておいて

  後で下げて来るパターンのやつかもしれん


-


「LINEって、やってる?」


  LINE、だと!?


  クッ、これは

  面倒くさいパターンのやつではないのか?


  やっていると言ったが最後

  蟻地獄にはまった獲物が如く

  なんだがんだ言って

  ズルズルとLINEグループに

  参加させられていまうという


  新興宗教やマルチ商法の勧誘並みの

  しつこさと言っても過言ではないだろう


  もうこの際、ハッキリ

  先に言ってしまった方がいいのか!?


  俺はネットの中でも

  他人と全く交流出来ないタイプの人間だと!!


それを胸張って人前で言えたらすごいと思う。


「あぁ、

あの自動表示で出て来る『知り合いかも?』が

ガチでいい線の知り合いばかりだったから

個人情報を抜かれているのではないかと不安になって

アンインストールしてしまったあのアプリのことか」


暗に今LINEはやってないアピールをはじめるナナシ。


  ここは個人情報保護主義者の名にかけても

  断り切らなくてはならん


「試しに入れただけなので

詳しくはないのだが……


友達登録の人数が多過ぎたり、

大人数のグループに入ってしまうと、

ひっきりなしに通知が来て

うるさいから通知音なしにするが、

それでも画面に通知の表示が出てしまい、

試験期間中でも

気になって気になって仕方がなくなって

勉強が全く手につかなくなってしまうという

おそろしいツールのことだな


しかも我慢し切れなくなって

ついつい見てしまった時に限って

急に誰もいなくなって、

何度もリロードしてみるが

何の音沙汰もなくて

諸行無常とはこういうものかと思いながら、

静寂と孤独を感じて悲しくなり

泣きそうになってしまうという

メンタルを破壊しに来る、あれのことかな」


「もしくは

全くLINEを開かないと、LINE読めと怒られて、

読んだら読んだで既読スルーするなと怒られる、

返事をしなくてはならないという状況を生み出し、

コミュニケーションを無理矢理強制されるという

コミュ障撲殺ツールのことか?」


「まぁ、残念だが、

今はやっていない」


結論をここまで引き延ばして

先に延々と言い訳する当たり、

コミュニケーション能力が無いという才能を

惜し気もなく発揮し過ぎるナナシ。


しかも相手が美少女ということもあって

緊張しているのか、エキサイトしているのか、

物凄く甲高い震え声での早口。

早口過ぎて、口角に泡が溜まりまくって、

唾も飛ばして、美少女の顔にかかりそうなぐらいの勢い。


-


実のところ、ナナシの見た目はそんなに悪くはない。

眼鏡男子が好きな女子だったら

惚れそうなぐらいのルックスではある。


女子から積極的に話し掛けて、

「この女、俺に気があるんじゃねーの?」と思われても

「まぁ、仕方ないかなあ」と女子が感じるぐらいに

まぁまぁルックスはいい。


しかし、あまりにも圧倒的な陰キャぶりと

コミュ障に起因する喋った時の気持ち悪さが

見た目の好感度を一気に台無しにし、

生理的な嫌悪もしくは憎悪へと昇華させてしまうのだ。


それで中学時代に最初に声を掛けて来た女子は

見た目にだまされた怒りと憎しみ、

自分の不甲斐なさを呪い、

気持ち悪いと女子の間で触れ回った挙句、

ナナシが女子と話すのは

年に三回までになっていた。



そしてナナシは自分のルックスについては

何も気づいていない。


それはなぜか?


鏡を見ないからに他ならない。


朝顔を洗う時、

眼鏡を外すというのがまず大きい。


それ以外に鏡を使うことがあっても、

髪の寝癖チェックか、

服装の乱れチェックかぐらいで

顔を注視して見ることはほとんどない。


その上、この陰キャぶりで

個人情報保護主義者であるため、

写真にうつることを極端に嫌う。


つまり小学生ぐらいの顔のイメージで

ナナシの中の本人像は止まってしまっているのだ。



「LINE、結構詳しい、よね?」


「いや、断じてそんなことはない!!」





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