忙しい犯人

 黒い服が似合う強い女殺人鬼が観たかったのかもしれない。

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 80年代の映画を鑑賞しているような感じ。

 洋館のような作りのゲストルーム、もしくは小さめのホテルが舞台。オーナーである小太りの男が知人の美男美女を招待して屋敷でパーティを開催する。

ビジネスマン、夫婦、子連れの母子など数組の参加者がおり、豪華な食事や会話を交わすうちに夜になる。一見全員初対面にみえて裏で人間関係が複雑に絡まっている。参加者はゲストルームで眠りにつき、あと数日は滞在する予定。

 主人公はオーナーの秘書であるショートカットの女性。美人、仕事ができる、生活にルーティンがあり常にキビキビ行動している、頭の回転が速く賢い、のがざっくりとした特徴。

 参加者の女達を、見事な手際で殺害していく。


 一人目は、夜独りでいるところ部屋を尋ねた。女性がドライヤーで髪を乾かしながら、主人公と鏡越しに話をする。主人公の話を聞いた女性は、次第に顔色を変える。主人公の素性に心当たりがあった様子。怯える女性が振り返る前に、ドライヤーのコンセントを使って、抵抗する暇を与えず絞殺した。女性をベッドの下に隠し、何食わぬ顔で自室に戻る。


 大体一晩に一人くらいのペースで殺し、死体を隠しては、昼間は何事もなかったように秘書の仕事をこなす。

 3日ほどたった頃、どこかの部屋に隠していた死体が見つかってしまう。例によって嵐か何かで警察が来ない。ゲストハウスは瞬く間に張り詰めた空気になる。犯人当てが始まっても、主人公は自分の行動を全て覚えており、機転が利くためアリバイは完璧。疑われる余地はない。

 夫人の一人が、あまりに隙がない主人公が怪しいと叫んだが、主人公が「逆にすぐ叫び声を上げて目立った貴女が怪しい」と言い返し押し黙らせる。見かねた他の参加者達がヒステリーを起こしている女性を気遣い、部屋で休ませると言ってその場は解散となる。


 また、単独で動く女がいた。彼女は参加者の中でも地味だが、勘が鋭く、好奇心旺盛で、密かに事件の情報を集めることにした。記者かよほどのミステリーマニアだったのかもしれない。

 尋常じゃない熱意で丸2日ほどアリバイや証拠を集め、ついに主人公が犯人だと結論づけた。朝、全員が集まったホールで証拠を突きつける。しかし証拠品と推理に些細な穴があり、主人公が指摘したことでアリバイがより強固なものになってしまった。

 その夜、主人公が女性の部屋を訪れる。女は主人公を犯人扱いした事を謝るが、主人公は「実はここまでは私も気づいていたの」「この時ならこうじゃないかしら」と女の推理にアドバイスをする。女は賢い主人公を信頼し、メモを取りながら一緒に推理を巡らせるが、後ろを向いた隙に刺し殺されてしまった。死体を隠し、メモ帳のページを破り、主人公は部屋を後にした。


 次に近づいてきたのは伊達男だった。彼はどこかの時点で犯人に気づいたが、誰にも言わず主人公の好きにさせていた。恋愛感情を抱いていたのかもしれない。殺人の瞬間も目撃するが、隠れてやり過ごし、果てには頼まれてもいないのに証拠の隠蔽に加担ようになる。流石に主人公も気付き、男に詰め寄るが「僕は君の味方だから」と受け流されてしまう。男を殺すこともできたが、主人公は男を放置し、いくつか証拠やアリバイの隠蔽に利用し、男は粛々とそれを遂行した。それでも証拠を握られている主人公は男を信用できないので、男の裏を読みながら動くようになる。


 その後も様々な参加者が証拠集めに乗り出したり、主人公に接触するが、主人公は気づかれることはなく、気づかれても主人公に殺されてしまう。



 数日後のある日、主人公はいつも通り玄関ホールに現れた。偶然いたオーナーに挨拶して、「あらおはよう。お客さんがきてるのかしら?」と尋ねる。この時点で目的の殺人は終わっており、オーナーと男が数名、地味な中年女性と子供達など無関係な者しか残っていない。

 オーナーは違和感を覚えながら、今泊まっているのは数日前のパーティのメンバーだけだと伝えるが、主人公は首をかしげる。

 しばらくして、全員が起きてホールに集まる。改めてオーナーが全員の紹介をするが、主人公は初対面のように挨拶し、ホールを去る。面々は、彼女はどうしたんだ?と顔を見合わせた。

 部屋に戻った主人公は、身支度を整えている途中部屋に違和感を覚え、ベッドの下に隠していた死体を見つける。驚いて後ずさるが、すぐに冷静になり、ベッドを元に戻し、身支度を終わらせて部屋を出る。もしかしたらさっきの人達の中に殺人鬼がいるのかもしれない、などと考えているが、自分が殺した事は何故か覚えていなかった。

 玄関ホールに行くと、参加者のひとりの男と数日目に話した時のような他人行儀な会話をし、習慣なのか玄関のドアに手をかけた。ガチャリと音だけがホールに響く。そこの鍵は随分前に彼女が紛失させたので開くことはない。

 男は近寄り、主人公の手首を掴んで、つけている香水を言い当てた。


 数日前、男は事件の調査していたひとりだったが、他の参加者に比べると、頑固で、柔軟に動くのが苦手で、証拠不十分ということで主人公に負かされて、ゲストハウスを去ろうとしているところだった。

 以前彼が玄関の扉を調べたとき、主人公が常につけている香水の匂いがない(主人公がわざと香水つけず痕跡が残らないようにしていた)せいで、一度主人公を容疑者から外していた。つまりここは男が引っかけられた場所だった。

 男は自分達が館に来た日と、今日の日付を告げると「君の頭も一杯になるわけだ」と言って手にキスをした。瞬間、主人公はすべての記憶を取り戻し、唖然としてロビーの床に膝を落した。

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