空島の祭り

 「西風の旅」の構想を練っていた頃にみた夢。たぶんこのままストーリーに使う。


 空の上の飛行船で暮らすの子供たちの話。

 運び屋の自分と同僚。嵐に巻き込まれて遭難するも、偶然出会った飛行船に帰る手段が見つかるまでお世話になっている状況。

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 ある日、船長の女性が祭りがくる!と嬉しそうな声を出した。子供達は「祭り!」「祭りだって!」とばたばた駆け回り始め、居間の物がいくつか倒れる。現在居候中(部屋をひとつ借りてる状態)の私と同僚は、訳がわからず顔を見合わせた。この空の上で一体何の祭りがあるというのか。

 船長いわく、その祭りは体質的に参加できる人とできない人がいるそうで、参加できる子供達に大人が付き添って行くらしい。参加可能な大人が少ないので、客人の私達も駆り出される事になった。

 子供達はお面などで仮装して楽しそうだ。船内にある和室の一室を片付け、全員が中に入ってから全ての襖を閉める。船長が儀式の道具を整え、いつもは船外の廊下に通じている襖に札を貼り付ける。何やら呪文を唱え終わると、船長は取っ手に指をかけた。

 それではご注目!さーん、にーい、いーち……!

 興奮した子供達のかけ声に合わせて襖が開かれた。


 外は、見知らぬ廊下に繋がっていた。

 青い空も、飛行挺のフィンの音も消え、薄暗い木目の廊下が続いている。元の船が和風の襖がスチームパンク調の飛行船にあったせいか、こちらのほうがしっくりきてしまう。向かいや隣室には様々な襖が並び、廊下は色とりどりの提灯と通行人で賑わっていた。通行人に、人型の者は見られない。頭が長かったり、蛇のような姿で這いずっていたり、色々だ。

 船長は子供達に注意を呼び掛けると、あらかじめ決めていた班に分かれて巡り始めた。船長は一人買い物に行くと言ってどこかへ行ってしまった。


 建物は広く、日本の城のような構造をしていた。自分達の部屋(襖)は、建物の廊下にある一室ということになっている。襖を締め切っている限りは住人以外入れないらしいので、疲れたら帰ってきて休んでいいとか。ただし、中の廊下以外の襖(位置的に船内の他の部屋に繋がっている)は開けると帰れなくなるので、絶対に触れるなと言われている。廊下の他の襖も同様に駄目らしいが、まあたぶん、他の客の部屋があるんだろう。

 同僚の班を見送り、私も三人ほどの子供を連れて廊下を進む。とはいえ子供達は以前も参加した事があるそうなので、もっぱら付いて行くだけだ。あっちへいこう、こっちへいこう、と何か紙を見ながら相談している。


 階段から幾つか階を移動して、子供達は古びた襖の前で止まった。小さな皿を持ったまま戸口に向かっているので、そのままトリック・オア・トリート!とでも言いそうな雰囲気だ。子供の一人が聞き慣れない言葉で語りかけ始め、最後に「………を受け取りに参りました!」とだけ聞き取れた。襖の向こうから何者かの声が聞こえ、しばらく合言葉のような問答を子供達が行う。なにを話しているのかさっぱりわからない。しかし正解したようで、ふいに襖が少しだけ開かれた。瓢箪ような大きな頭の頬の垂れた生き物が顔を出し、子供がもっていた器に綺麗な石のようなものがカラカラと乗せられる。喜ぶ子供達。一緒に赤い手形がついた不思議な紙も渡され、襖が閉じられる。

 子供達は次は何処へいこうと話合っている。学園祭のアトラクションみたいだ。今度はあたしがやる、僕が問答する、と順番を決めて、また違う場所へ向かう。

 しばらく色んな部屋を回った後で、偶然さっきの襖の前を通りかかった。廊下に面した襖は全て開いていた。20畳ほどの室内は無人で、ぼろぼろの壁や天井にびっしりと赤い手形のついた紙が張り付いていた。子供の一人が「今回はもうお仕舞い、ってサインなんだよ」と教えてくれた。


 途中で同僚と他の大人達の班と落ち合った。そろそろ大丈夫、とか何とか言って、分けていた班を合流させて全員で回ることになった。何故かはわからないけど、確かに最初の時と通行人の種類が変わっている気がする。それでも人気、不人気があるのか、やたら混み合っている廊下と空いている廊下があった。

 船長は、飲食ができる廊下(廊下に面した大部屋にみっちり屋台の飲食店が入っている。華やかだが混雑として色んな匂いがする)で人外の姿をした何かと酒を飲み交わしていた。酔っ払いついでに物の交換や約束を取り付けたりしているので、商魂逞しいというか、元気な人である。


 通行量の多い廊下で、人の波に流されながら進んでいると、膝に何かがぶつかった。廊下の中央に、そこそこの大きさの招き猫が鎮座していた。うっかり蹴っとばしそうになったが、万が一ただの招き猫でなかったら大変だ。しかしここに居座られるのはどう考えても邪魔である。一応、形だけ「こんにちは、すみません」と人同様の挨拶をして避けて通った。

 比較的空いている階段付近で一息つく。この上の階に用があるらしいので皆で階段を上がっていると、なにやら猫の鳴き声がした。手摺から下を覗くと、妙に半透明の猫がついてきている。来ないよう呼び掛けても来てしまうので、仕方なく好きにさせた。

 上階で再び船長と合流した。船長は縁起がいいからと似たような透明の猫をもらってきたようで、首や肩の周りにすり寄っている猫を自慢している所だった。私の後ろにいた猫が唸り声を上げる。それを見た船長が、喧嘩になりそうだから先に部屋へ連れ帰っているようにと笑った。丁度歩き回って疲れていた所だし、一人で猫を連れて部屋に戻った。

 自分達の部屋の敷居を跨ぐと、猫は大きな招き猫に戻った。話しかけても猫に戻らない。でっぷりとした体を抱えて、部屋全体が見えそうな位置に置いておく。どことなく誇らしそうだ。そのまま二人で、殺風景な畳の上でぼうっと休んでいた。

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