君を思い出す季節

メトロノーム

君を思い出す季節

あれから、何度桜が咲き誇ったのだろう。

あれから、何度君が隣にいない季節を過ごしただろう。


僕は、少しでも前に進めているかな。

きっと君がいたのなら、笑顔で頷いてくれたはずだ。


いつか、君が言っていたよね。

「自分は必要の無い存在」だと。

初めて放った悲しい言葉が、その横顔があまりにも切なくて。


僕は、ただ見つめることしかできなかったんだ。

ただそれだけしか...


もしあの時、僕がもう少し大人だったら、君の心を救えていたのかな。

今でも二人、笑い合えていたのかな。


君の声が震えていたこと。君の瞳が揺れていたこと。


全てを包み込むことはできなかったけど、君自身気づいていなかったんだ。


「必要の無い存在など何もない」ということを。


「自分は必要の無い存在」だと言ったあの日。

触れたら消えてしまいそうで、言葉を飲み込むしかなかった。


それからは、昔の話をするようになったよね。

いつのまにか、君は過去にとらわれるようになっていて。


現在でも未来でもなく、過去の思い出へと歩みを進めていたんだ。

振り返ることもせず、ただひたすら。


その背中は何を語っているのか分からなくて、僕はただ見つめることしかできなかったんだ。

ただそれだけしか...


もしあの時、僕が君の手を掴んでいたのなら、君を守ることができていたのかな。

今でも二人、愛し合えていたのかな。


君の体が震えていたこと。君の笑顔が悲しかったこと。


全てを抱きしめることはできなかったけど、君自身教えてくれたんだ。

「失うべき存在など何もない」ということを。


君が好きだと言っていた桜の木。

月日が経っても、この場所で何度も咲き誇っている。

全てが必要で、失ってはいけない存在だと、君は知っていたのだろうか。


いつの日か教えてくれた、桜の花言葉。

その花言葉と同じように、今でも「美しい心」を持っている君が。


「大切なのは、現在という時間だったんだね。もっと早く気づけばよかった」

最後にそう言って、桜の花びらとともに、音もなく散っていった。


もしあの時、僕と君の心が交わっていなかったら、君と出逢えていなかったのかな。

今でも二人、愛を知らずにいたのかな。


君の心が泣いていたこと。君の愛が溢れていたこと。


全てを愛することはできなかったけど、君自身気づいていなかったんだ。


僕にとって、君が一番「必要で失ってはいけない存在」だということを。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

君を思い出す季節 メトロノーム @MetronomMan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ