第2話

「集まった皆に重大な話がある。

 王家の威信にかかわる大事件が起こってしまった。

 許し難い裏切りが明らかになってしまったのだ。

 私も最初は信じられなかった。

 何度も確かめさせたのだが、覆しようのない証人まで現れてしまった。

 一度は裏切りを許し騙されておこうかとも考えた。

 だが、王家王国のためには、個人の想いは押し殺さなければならない。

 だから余はその裏切りを明らかにして、泣く泣く断罪することにした!」


 王太子は熱弁をふるってはいるが、恐ろしく下手糞だった。

 大根役者としか言えない下手糞な演技だった。

 聞いていた若い貴族達は、内心王太子を嘲笑していたが、若くても貴族である。

 それを表に出すほど馬鹿でも命知らずでもなかった。


 そう、今回の舞踏会は、表向き婚約中の王太子とエリザを祝う会だったのだ。

 だから参加者は貴族家の当主や奥方ではなく、次期当主や長女だけを集めていた。

 だがそれは、隔絶した戦闘力を誇るペンブルック公爵を除き、邪魔されることなくエリザを人質にするために、シュルーズベリー侯爵が考えた謀略だった。


「ペンブルック公爵令嬢エリザが不義密通をしていたのだ!

 いや、嫌がる不可触民を無理やり襲ったのだ!

 しかもそれが露見しないように、不可触民を殺したのだ!

 何度も何度も不義密通と残虐行為を繰り返したのだ!

 婚約者であるエリザには温情をかけてやりたい。

 かけてやりたいが、王太子としてこのような残虐行為を許すことができない!

 何故なら、王孫に不義の子、不可触民の子が生まれてしまうかもしれないからだ!

 よってこの場でエリザを逮捕し処刑することにした!」


 王太子の下手糞な演技が続いていたが、密かに兵を配していたシュルーズベリー侯爵は、気にせずエリザを人質にしようと動いた。

 王太子が何を言っても、証人が不可触民では証拠にならない。

 エリザが不可触民が嘘を言っていると言えば、そちらの方が優先されてしまう。

 国王にも王族にも手をまわしているが、ペンブルック公爵と正面から戦いたい者は、この国には一人も存在しないのだ。


「エリザ嬢!

 王太子殿下の申されることが真実かどうか、公平な取り調べをさせていただきますので、抵抗せずに同行してください。

 証言しているのは不可触民ですから、エリザ嬢が裁判官の前で証言してくだされば、直ぐに無実が証明され名誉が回復されるでしょう。

 ですから抵抗などされず、我々と同行してください」


 シュルーズベリー侯爵は平気で嘘を言った。

 女とはいえペンブルック公爵の娘だ、抵抗されると逃げられる可能性がある。

 ここに集まった貴族の中に愚かな正義感を発揮するものがいるかもしれない。

 弁舌で騙し、進んで裁判を受ける気にさせようとしたのだ。

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