脳筋公爵令嬢は、王太子に婚約破棄され力加減を忘れる。
第1話
この夜の舞踏会は最初から不穏な雰囲気だった。
多くの参加者がこれから何が起こるか知っていた。
罠に嵌められる公爵令嬢エリザを気の毒に思う者は少数で、ほとんどの者は貶められるエリザを嘲笑い楽しむつもりだった。
すでに大半の王国貴族が堕落していたのだ。
気の毒に思う少数の者も、王太子ダヴィデに目を付けられるのを恐れていた。
王太子単独の権力も恐ろしいが、それ以上に冷酷非道なシュルーズベリー侯爵を恐れていた。
シュルーズベリー侯爵が娘のジョルジャに王太子を籠絡させて、王国の権力を一手に握ろうとしている事を理解していても、これまで多くの政敵を陥れ、情け容赦なく族滅させてきたシュルーズベリー侯爵に、逆らう勇気はなかった。
王国の剣とも盾とも称される、ペンブルック公爵家の権力も武力も健在ではあったが、いかんせん当主も一族も武力一辺倒で謀略政略は苦手で、脳筋公爵と陰口を叩かれるほどだった。
だからこそ、シュルーズベリー侯爵の暗躍を止めることができず、多くの忠臣が謀略で殺され滅ぼされてしまった。
もっともシュルーズベリー侯爵の謀略が際立っており、誰であろうとそれを見抜き罰する事は不可能だった。
だからこそ、多くの忠臣がなすすべなく殺されたのだ。
それに、シュルーズベリー侯爵は憶病なほど慎重だった。
謀略には必ず王族を絡め、自分は表に出ないようにしていた。
しかも最後の最後までペンブルック公爵を立て、殺し潰した貴族の権利や領地を独り占めにしなかった。
ペンブルック公爵を含めた王族に気前よく分配していたのだ。
だがいよいよ、ペンブルック公爵を潰す覚悟をした。
本当はエリザが王太子に嫁ぎ、王城に人質として確保できるまで待つ心算だった。
それが一番安全確実だと考えていた。
しかし予想外のことが起こってしまった。
娘のジョルジャが王太子の子供を身籠ったのだ!
これはシュルーズベリー侯爵にとって大きな福音だった。
合法的に王家を乗っ取ることができる、またとない機会だった。
だがそうなると、どうしても邪魔な存在があった。
王太子の婚約者であるエリザが邪魔だった。
例えジョルジャが男子を生んでも、正式な婚姻前の不義の子供となる。
認知されたとしても、大きな傷のある庶長子に過ぎない。
ペンブルック公爵家令嬢で正妃となったエリザが生んだ子供よりは、二段も三段も下に扱われてしまう。
それは娘を溺愛しているシュルーズベリー侯爵には耐えがたいことだった。
謀略に限りを尽くしてきたシュルーズベリー侯爵が、娘可愛さに当初の予定を初めて変えて、エリザに罠を仕掛け陥れることにしたのだ。
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