第3話

 多くの見物人がいるので、鳥達も警戒していたのでしょう。

 普段の鳥葬では、死んだ人間が横たえられているだけなのですから。

 しかも多くの人間が酒を飲み肉を喰らい大騒ぎしているのです。

 いくら腹をすかせた鳥達でも、私達を食べに来るのをためらいます。

 ですが堪え性のない王太子は我慢できなかったようです。

 早く私達が喰い殺されるのを見たかったのです。


「えぇぇぇぇい!

 いつまで待たせるのだ。

 さっさと鳥を集めないか!」


「何を言っているの!

 神様は全てお見通しなのよ!

 罪もない人間が裁かれるのを嫌って、鳥を抑えておられるのよ!

 さっさと私達を開放しなさい!

 直ぐに開放しなければ、王太子達ばかりではなく、あなた達まで神罰が下るわよ!」


 私はこの機会を利用して民を決起させようとしました。

 王族や貴族は腐りきっているので、私達を助けてはくれないでしょう。

 でも民はまだ期待できます。

 民の中にはまだ正しい信心をしている者がいるはずです。

 王太子や貴族の堕落を目の前にし、神罰が下らないのを見れば、決起してくれるかもしれません。


「黙れ罰当たりが!

 こやつらは邪教を信じ神の目を欺いているのだ!

 騙されるではないぞ!

 アンナ、何か妖術を打ち破る方法はないか?」


「そうでございますね、まずは民に妖術を打ち破る力を与えましょう」


「どうするのだ?」


「ワインを配るのです。

 聖なる飲み物であるワインを飲めば、妖術を見破れることでしょう」


(民に王家の富を配れというのか?

 もったいないではないか!)


(ここで民に騒がれたら元も子もありません。

 それにタルボット伯爵家を潰せば多くの財貨が手に入ります。

 それにワインを飲んで酔えば、もっと多くの賭け金が集まりますよ)


(仕方ないな)


「よく聞け!

 今から妖術を見破るために、余が私財をなげうって、聖なる飲み物ワインを振舞ってやる。

 感謝するがよい」


「「「「「ウォォォォォ!」」」」」


 ああ、駄目です。

 民に期待した私が馬鹿だったのでしょうか?

 ワインにつられて、いえ、欲につられて冷静な判断ができなくなっています。

 民にとっては、私達が殺されようと痛くも痒くもないのでしょう。

 それよりは、ワインを飲みながら私達が喰い殺される見物するほうが、気持ちが満たされ愉快なのでしょう。


「よし、いい手を思いついたぞ!

 妖術を打ち破り、神の目に罪人が映るように、罪人どもに傷をつけ血を流そうではないか。

 おい、剣で罪人共を斬り血を流させろ。

 だが殺すのではないぞ、それでは神意を確かめることができなくなる。

 あくまでも真意を確かめるために血を流させるのだ」

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