高齢者の勇者
まだ新米である
転移の女神アリエーネが
転移の間で待っていると、
大勢の老人達が姿を現した。
『え? この人達、
転移なのっ?』
アリエーネは一瞬
今日の業務を転生と
間違えたのではないかと不安になる。
この老人達が暮らしていた
老人ホームで火災が発生し、
気の毒なことに
命を落としたお年寄り
ということらしいのだが、
どう見ても、
寿命が尽きましたと言われれば
まぁそうだろうなと思う、
そんな高齢のお年寄りばかりである。
この年老いた肉体のまま転移をさせて
一体何をしてもらおうと言うのか。
さらにアリエーネは
上司からの指示書を見て驚く。
『作蔵:勇者』
老人達の中にいるお爺さん、
どう見ても九十歳は超えている、
作蔵さんは勇者に転移するとあった。
『そもそも、転移して
体もつのかしら?』
厳密に言えば、
人間世界で既に死んでいる人達で、
それで今ここに来ているのだけれど、
ここから異世界に転移する途中、
ショックでまた
絶命することはないのだろうか、
アリエーネは心配をしたが
転移の女神であるにも関わらず、
新米なので頭が混乱して
訳の分からないことになっていた。
ご老人の集団がバスツアーで
観光に来たようなことになっている転移の間で
アリエーネは必死に年寄り達に
転移についての説明をするのだが、
老人達の耳が遠くて全く伝わらない。
「あー?
あんだって?」
「ですから、
作蔵さんは勇者になりますから……」
「ゆ、ゆ、ゆ?……」
「勇者です、わかりますか?」
「あー?
あんだって?」
アリエーネはこんな調子で
お年寄り一人一人に
説明して回るハメになっていた。
-
こんな調子なのだが、
ご老人達、異世界に行くと
そうはもうメチャクチャに強かった。
老人が強いと言うよりは、
プログラマーの勇者が書き換えた
この異世界のバランス調整が
デタラメ過ぎた。
勇者作蔵さんのパーティーは
聖騎士・権三さん、
賢者・お梅さん、
聖者・おみよさん、などなど
全員がお年寄りで
平均年齢八十五歳の
超高齢パーティーであったが、
ただ何もせずに杖を突いて歩いているだけで
魔王軍を次々を撃ち破って行く。
杖を突いて歩く
勇者一行も珍しい。
敵が攻撃して来ると発動するスキル
『お年寄りを大事にしましょう』
それは、敵のありとあらゆる攻撃を
必ず仕掛けた本人に跳ね返す究極のバリア、
物理攻撃であろうと魔法であろうと
魔王の攻撃ですら例外ではない。
お年寄り本人達は何もせず
四人で井戸端会議をしているだけ。
「この、あいだ、ねぇ……」
「あー?
あんだって?」
「いや、だから、ねぇ……」
「あー?
あんだって?」
喋る方も何を言っているかよく分からないし、
聞く方も耳が遠くて聞こえないという、
もうお喋りしなくてもいいのではないか
という気がして来なくもない。
それならばいっそ
攻撃しなければよいのではないか、
魔王もそう思ったのだが。
そうすると老人達のスキルが
自動で発動する仕組みになっている。
『よしこさん、ご飯はまだかね?』
このスキルが発動すると
「ご飯はさっき食べたでしょっ!」
と言いながら必ず攻撃をさせられる、
一種の催眠洗脳のようなスキル。
従って敵は必ず攻撃を仕掛け、
必ず攻撃を跳ね返され、
必ず自滅して行く。
存在するだけで
敵を殲滅して行く
兵器のようなものだ。
高齢者で構成された
勇者パーティーを見て、
魔王はしみじみ思う。
『これ、
年寄りじゃなくても、
誰でもよくないか?』
-
勇者不足が深刻過ぎて
ついに人間のお年寄り達までも
転移者の対象にしはじめた神々。
通常であれば当然無茶な話なのだが、
プログラマーの勇者が
異世界の
書き換えてしまえば何でもありで
誰が勇者をやろうが
もはや関係ない。
人手不足で
定年退職年齢がどんどん上がり、
高齢者もどんどん
働きましょうと言う日本と同じで、
神々も高齢者のみなさんに
死ぬまで働いてもらおうということか、
まぁこのお年寄り達の場合、
既に一度死んでいるので
死んでからも働きましょう、
といことになるのか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます