プログラマーの勇者とゲーマーの勇者

真っ白な空間、

カタカタとキーボードを

ひたすら打ち続ける音だけが

途切れることなく鳴り響く。


そこには

プログラマーの勇者がいる。


彼こそはある意味で

最強と呼ばれる勇者。


この世界には最強が多過ぎて

誰が『最も』なのか

よく分からないのだが。



彼は人間世界でも

非情に優秀なプログラマーであったが、

ゲーム好きが高じて

ゲーム製作会社に入ったのが運の尽き。


超絶ブラック企業の劣悪な労働環境の中、

何日も睡眠すら取れずに徹夜を続けていたが、

ついに個室トイレで倒れて

そのまま帰らぬ人となる。


その際に神々によって

スカウトされて

ここに転移して来たのだが、

彼は普通の勇者とは

少し趣が異なることを

やらされていた。


ここも異世界かと問われれば

微妙な空間なのだが、

とりあえず人間世界でない

それだけは確かだ。


-


そして彼の何が

最強なのかと言えば、

おおよそ全ての異世界の魔王は

彼の手に掛かれば

簡単に倒せてしまうところにある。


身体能力が

飛び抜けている訳でもなく、

魔力が高い訳でもないが、

その特殊能力だけは

驚異的なものを持っているのだ。



ゲームをやっていて

ゲームの中に入り込んでしまったら

そこが異世界だったというのは

よく聞く話ではあるが、

彼の能力はその全く

逆のことをやってみせる。


一つの異世界のことわりをすべて

膨大なプログラムに書き起こして

ゲーム化してしまう。


書き起こしたそのプログラムを

彼が修正すると、

それは事実として書き換えられて

異世界にフィードバックし反映される。


「この異世界は、

Lvの上限は30ぐらいなのか、

まぁじゃぁ、人間だけ

上限99ぐらいに書き換えておくかな、

三桁にすると

他にもいじらなきゃいけないとこ

沢山出てくるしな……」



神にも等しい能力で、

本来であれば神々が

やるようなことであるのだが、

この世界のちょっと残念な神々は

そうした細かいバランス調整が得意ではなく、

結果として今多数の異世界が

ちょっとばかり

崩壊し放題になっている。


神々と言う

ディレクターの指示に従い

摂理のプログラムを書き換えている

ただの下請けのように、

見方を変えれば見えなくもないが

それではロマンが無いというものだ。


-


そして彼の相方とも呼べる存在が

ゲーマーの勇者であり、

彼がプログラムを書き起こして

ゲーム化した異世界を

まるでゲーム機で

プレイするかの如く進めて

クリアする役割を担っていた。


ゲームクリアのミッションは

当然魔王討伐ということになる。


彼もまたブラックな

ゲーム会社に勤務していて、

過労死してここにやって来たクチなのだが、

プログラマーの勇者が

書き換えたヌルゲーをひたすら

クリアし続ける作業を

延々と行わなければならなかった。



二人ともせっかく異世界に転移して来た筈なのだが、

この空間から一歩も外に出ることはなく、

寝ないでも死なないように

神々に加護され、

ひたすら作業を繰り返す。


やっていることは

人間世界に居た頃とほとんど変わらず、

仕事量はその頃以上という

ブラック企業もびっくりの

超ブラック体質、

それがこの世界に君臨する

神々のやり口でもあった。





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