【急募】勇者募集中!お年寄りから幼女まで誰にでも出来る簡単なお仕事です

ウロノロムロ

勇者図鑑(1)

ヤンキー勇者

丈の短い学制服の上着、

いわゆる短ランを着たリーゼント頭の高校生。


ヤンキーである彼は

手に釘バットを持ち、

頭から血を流し

フラフラになりながら道を歩いていた。


対立する真央高校まおうこうこうとの

喧嘩帰り。


百人近い数を相手に一人で戦った彼は

既にボロボロの状態。


『ちぃっとばっかし、

血を流し過ぎたな』


とうとう歩けなくなった彼は

力尽きて、意識を失い

そこで行き倒れた。


-


新米転移の女神アリエーネは

目の前にいるヤンキーを見て

また違和感を覚える。


「何、ガン飛ばしてんだ、てめぇ」


『若い男の子ではあるのだけれど、

なんかこれも違うわ……』


もはや『これ』扱いの女神。


目の前に居るヤンキーは

手に釘バットを持っている、

女神が感じた違和感の正体はそれであろう。


釘バットとは、

野球のバットに沢山の釘が刺さっている

ヤンキー固有の装備なのだが、

まさかこの転移の間まで持ち込んで来るとは、

余程思い入れが強いのか

もはや体の一部のようなものなのか。



そして彼もまた、上からの指示書には

『勇者』となっている。


女神アリエーネが

この現場に赴任して来てからは

まともな勇者が一人も誕生していない。


『勇者って、

変わった人じゃないとなれないのかしら?』


-


異世界に転移したヤンキー勇者、

だがそこには、かってのライバルである

真央高校まおうこうこう菊池きくいけ

魔王軍として転移して来ていた。


異世界でも変わらず

短ラン姿のヤンキー勇者。


「まさか、こんなところで、

てめぇとケリを着けられるとはな」


「そりゃぁ、

こっちのセリフだぜっ」


「俺の聖剣エクスガリバーを

見せてやんよっ!!」


そう言ってヤンキー勇者が

取り出したのは

いつも手にしている釘バット。


『聖剣エクスガリバー(釘バット)』


一体どの辺が『剣』なのかよく分からない、

もはやそれは概念なのか、哲学なのか。


ファンタジー世界を

よく知らないヤンキー勇者、

おそらく雰囲気で

名前を付けているだけなのだろう。



聖剣エクスガリバー(釘バット)を

振るうヤンキー勇者、

しかし菊池の卑劣な罠に嵌り、

隠れていた魔王軍の兵達から

不意打ちを喰らう。


「菊池っ!

タイマンじゃねえのかっ!?

汚ねえぞっ!」


「そんな言葉を素直に信じる、

おめえが馬鹿なのさっ!」


「そうかい、じゃあ

こっちも遠慮なく

仲間を呼ばせてもらうぜっ!」


そう言ってヤンキー勇者が

短ランの前をガバッと開くと、

その真っ赤な裏地に刺繍された竜が、

実体となり飛び出して来る。


ヤンキー勇者は竜を召還したのだった。


ヤンキーと言えば

竜が大好きと相場は決まっている。


ヤンキー的な隠れお洒落の

学ランの裏地にも

竜の刺繍と相場は決まっている。


特攻服やスカジャンの後ろの刺繍も

竜でなければならないのだ。


ちなみに西洋風ドラゴンではなく

和風の竜でなければ認められない。



しかし、

膨大な数の敵を前に

召還した竜も傷つき、

ヤンキー勇者も押されている。


「こうなりゃ、

アレを出すしかないっ」


ヤンキー勇者は

右手を天に突き上げ叫ぶ。


「天上天下唯我独尊っ!!」


ヤンキー勇者が

唯一知っている難しい言葉が

『天上天下唯我独尊』であり、

ハイパーモードになる時に

雰囲気でその言葉を使っている。


髪の毛が黒から

金髪のリーゼントに

変化するヤンキー勇者、

さらに続けて叫ぶ。


「聖衣っ、装着っ!!」


『聖衣、初代総長の特攻服』


これこそがヤンキーにとっては

命よりも大事な

歴代総長に受け継がれている、

初代総長が使っていた

真っ白な特攻服。


これを着ると

気合と根性が何倍にも増幅され、

ヤンキー勇者の能力が向上するという、

根性論の塊のような装備に

他ならない。



ハイパーモードになり

金色に光り輝くヤンキー勇者。


「おぉっ」


その姿に敵ながら

感嘆の声を上げる菊池。


柄の悪いヤンキーから

金髪のさらに柄の悪いヤンキーに

なったようにしか見えないが、

これがヤンキー勇者の究極奥義

『天上天下唯我独尊』だ。



ハイパーモードのヤンキー勇者、

聖剣エクスガリバー(釘バット)で

並み居る敵をぶちのめす。


最後は菊池を

ジャイアントスイングで

何度も回転してから投げ飛ばし、

落ちて来るところを

聖剣エクスガリバー(釘バット)で

打ち返した。


もはや剣でも何でもなく

ただのバットでしかない

聖剣エクスガリバー。


ヤンキーが

プロレス好きなのも相場であり、

無駄に動きが大きい

大技が大好きと言うのも決まっている。


ヤンキー勇者の戦いは

まだまだこれからだっ!





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