第102話 旅の宿(1) 避暑地

 二人は休憩を終え、再び進み始めた。

 エスペルはダチョウ形態のカア坊に乗って、ライラは低空飛行で、森の中を行く。

 まずは王国北東部にある「プラーナ窟」を目指すことにした。


 セラフィムとの遭遇を避けて進むのに、霊能感知器ペンダントはとても役立った。青く光った時は、身を物陰に隠した。すると上空をセラフィムが飛んでいく。森の中を進んでいるので、地上でセラフィムに出会うことはなかった。


 特にエスペル達の捜索網が敷かれている様子はなかった。

 先ほどから上空のセラフィム達はルヴァーナ監獄方面と王都方面の間を行き来しているので、どうもミカエルが破壊した監獄の後始末に追われているだけのようだ。


「俺たちを探してる感じはしないな」


「何故かルシフェル様が協力してくれたから、しばらく本格的な捜索は行われないんじゃないかしら。ミカエル様次第だけれど」


 だいぶ反抗的な態度ではあったが、ルシフェルの命令はミカエルの行動を縛っているようだ。


「だが、希石コアとやらに手出ししたら流石にバレるよな?」


「そうね……。それにどの希石コアにも守護傀儡ガーディアンが設置されているし、戦闘も避けられないわ」


守護傀儡ガーディアン……。また死霊傀儡か?」


「ええ、しかもセラフィムの死霊が材料よ」


「厄介だなぁ」


 エスペルは空を見上げた。日は没し、一番星が輝き始めていた。お互い、まだ疲労も取れていない。


「破壊行動は明日にするか……。明日一気にかたをつけよう。今、目指しているプラーナ窟に行く途中に、良いところがあるんだ。野宿もしんどいし、そこで寝床を探そう」


 ※※※


 さる豪奢な屋敷の門前で、エスペルは「うん」と力強く頷いていた。


「ここだ!ここにしよう、寝床」


「なんでここ?」


「一番、立派だ!」


「な、なによそれ……」


「子供の頃から憧れだったんだよ、ミリアーナ湖畔の別荘!ついに来たぞー、夜だけど。昼見たら絶景だぞここら辺は。風光明媚って奴だな」


「ふ、ふうん……」


 エスペル達は今、カブリア王国の貴族の避暑地として名高い、ミリアーナ湖畔の一角にいた。万年雪で化粧されたラック山脈を望む緑の高原と、青い湖。それらが織り成す、水と緑の景色は見る者を魅了した。

 夏になると毎年、多くの貴族達がこの湖で舟遊びをし、湖畔のテラスで茶を嗜み、広大な庭でボールゲームに興じていた。


 そういうわけで、湖畔のあちこちには、貴族達のどでかい別荘が鎮座していたのだ。


「どうせ借りるなら、一番いいとこに泊まりたいじゃないか」


 そんな事を言いながら、エスペルは風魔法を使ってひょいと跳躍し、門の中に入り込む。ライラも後に続いた。


 エスペルは入り口を探して屋敷周りをぐるりと回ってみた。

 そして一つ、鍵のかかっていない戸口を見つけた。


「よし、ここから入れるぞ。楽しみだなあ、貴族のお屋敷」


「もう……」


 ライラが呆れて肩をすくめた。

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