第57話 傀儡工房村、襲撃(6) 工房へ

 工房内の職人セラフィムたちは、打ちひしがれていた。

 天界から持ってきた、作るのに三年もかかる、特製の傀儡魂ギミック・セフィラを使って作った死霊傀儡が、敗北したのだ。


「まだだ。まだ諦めんな。奴らを殺すまで諦めんじゃねえぞおめえら!」


 親方、カサドは檄を飛ばした。

 職人セラフィムたちは悔恨の念を滲ませながら、広い作業部屋の中、新たな傀儡作り作業に打ち込んでいた。


 そこにノックの音が聞こえた。ドンドンと責め立てるように、何度も叩かれる。


「ちっ、またイヴァルトの野郎かい」


 一人の女の職人セラフィムが作業台から腰を上げ、ドアに向かった。

 ドアを開けながら、


「はいはい、そんな叩かなくても聞こえるよお……」


 が、ドアの向こうに立っている男女を見て、目を見張る。


「お、お前らは!?」


 エスペルが得意そうな顔でライラに言った。


「ほら、開いただろ?」


「あなたって人は……」


 エスペルはドアを開けた職人セラフィムに向かって、友達のようによっ、と手を挙げた。


「よお。おたくらのお人形にうんざりしてるんで、潰しに来たぜ。あ、カア坊はちょっと避難してな」


「カア!」


 と一声、カア坊は屋根の形がそのまま見える天井の梁のあたりに飛んで行った。


「親方あっ!人間と、矮小羽のライラです!」


「なにッ!?」


 傀儡工房は騒然となる。

 職人たちはいきり立った。二人を睨みつける、その数、十数名。

 どの職人も例外なく、顔も服も汚れた浮浪者のような身なりをしており、その容貌は粗暴で荒々しい。

 

 カサドはぶほっとタバコの煙を咳き込み、だが面白そうに眉を上げた。

 キセルを灰皿にトントンと叩くと、コリをほぐすように首を左右に振りながら立ち上がった。


「クックック。まさかてめえの方からやって来るとはなあ。人間のくせに霧の結界を超えたか」


 職人セラフィムが、ドンと作業台を叩いた。


「てめえらか!てめえらが、俺たちの作品をぶっ壊しやがったんだな!」


 エスペルはハッと鼻で笑った。


「なにが作品だ、人の亡骸と魂をもて遊びやがって、腐れ外道がッ!」


「んだと!?俺たちの心血注いだ作品のかたき、とってやる!」


 職人セラフィムが手をこちらに突き出し、ドン、とセフィロト攻撃を撃ってきた。


 くすぐったいほど軽い衝撃を受け、エスペルはふっと笑う。


「弱いな、お前」


「し、死なない!?」


 エスペルは手にためていた、冷気の球を一気に巨大化させ、掲げた。


「霊体化しなくていいのか?——特大氷結玉ギガ・クリンガ!」


 エスペルはぶちかました。

 作業部屋にいる職人セラフィムたちの体が一瞬で凍結し、氷像となる。


 が、全ての職人セラフィムが凍結したわけではなかった。

 

「あっ……ありがとうございます、親方!」


 カサドが自分とその周囲にいる職人数名に、霊体化防御エクトプラズマイドをかけていた。


「油断すんな、おめえら。こいつはイヴァルトにも今までの死霊傀儡にも勝ったんだぜ?」


 数名残っていることに気づいたエスペルがちっと舌打ちする。


「凍っててくれるとありがたいんだがなあ。お前らみたいな身なりのセラフィム、地獄の六日間で見なかった。戦闘能力もかなり低いし、お前ら、人を殺したことがないだろう?」


「そ、その通りだ悪いか!だからなんだってんだ、舐めてんのか!役目、役割ってのがあんだよ!」


 エスペルは小さくため息をつきながら、


「だから、あんまり殺したくないんだよ俺は」


 カサドは、片目ゴーグルをつけてない方の目をぎょろりと剥いて、エスペルを睨みつけた。


「ハッ!殺したくないだあ?舐めやがって、どっからその余裕がでてくるんだ!てめえ、ここがどこだか分かってんのか?オレたちはなあ、傀儡で戦うんだよ!」


 そして片腕を横に広げ、叫ぶ。


「——傀儡稼働トリガー・ゴーレム!」

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