第45話 キリア大聖堂での戦闘(6) 策

「ヒルデ、何か策はないか!?」


 エスペルの問いに、ヒルデも心苦しそうに顔を顰めている。


「俺にも見当がつかん……。だが、氷結という発想は良いと思う。何かより強力な活動停止魔法を加えれば……」


 そう言ってヒルデは瓦礫と化した神殿を見回し、拳を握りしめた。その瞳に、らしくない激情がにじんでいた。


「しかしこいつは、なんて罰当たりなことを!神儀の最中に現れて神殿を破壊するなんて……!」


 その悔しげな様子を見て、エスペルの脳裏に閃くものがあった。


「それだヒルデ!ここだ、この場所だ!そして今日、この日、この状況!」


「なに……」


 怪訝な顔をしたヒルデは、はたと気が付いた様子で、目を見開いた。


「そういうことか……!分かった、いいだろう、やろう。……だがおそらく、たった一度、しかもあの粒子を止めるとなると、一瞬しか成功しない」


「構わない、一瞬で仕留める」


 二人が何やらうなずき合った、その時。


「危ない!」


 ライラの声が響いた。

 見ると、巨大な死霊傀儡が拳を振り下ろそうとしているところだった。

  

 だが、


聖なる鉄槌ホーリー・ハンマー!」

 

 ミンシーの声。

 空間に巨大な光るハンマーが出現し、死霊傀儡の拳をタコ殴りにした。


「フグおッッ」

 

 死霊傀儡が痛がって手を振り払うが、ハンマーはしつこくその手を殴り続ける。

 大した威力はなさそうな魔法なのだが、どうも死霊傀儡はこのハンマーがイラつくらしく、躍起になって振り払おうと奮闘していた。

 

「ありがとうございます、魔術師のお姉さん!」


 言いながらエスペルは剣を振るい、再び超人的な剣技でもって、死霊傀儡をばらばらに切断した。そしてついでとばかりに、二度目の極大氷結魔法で、ばらした肉片を凍結させた。


「あ、み、ミンシーです……。あと多分、私のほうが年下で……18歳で……」


 ヒルデがふんと鼻を鳴らし、小声でつぶやいた。


「やっと仕事したか。クビにしようと思っていたところだったが」

 

 ヒルデの側まで駆け寄ってきたミンシーは、


「き、聞こちゃってる感じですヒルデ様!面目次第もございませんーーーっ!しかしもう凍結解除されるとは、やはり精霊魔法は死霊系モンスターと相性が悪いのですね、学校で習った通りです!」


 ヒルデは死霊傀儡を再び凍結させたエスペルに声を掛けた。


「エスペルとライラは離れた所で、何もしないで待機しろ!俺がこいつの『仕掛け』を止める、その一瞬を逃すな!」


「分かった!行こうライラ!」


「ええ!」


 エスペルとライラは、走ってその場から距離を取った。

 その背中を見送り、ヒルデはミンシーに声をかける。


「ミンシー」


「はい!?」


「あのデカブツには小手先の術では埒があかん。大技で動きを封じる」


「はい」


「俺は離れて詠唱する」


「はい」


「お前が一人で時間を稼げ」


「はい……」


「よし」


「……って、え!?はあっ!?前線私一人ですか!?」


 四散した肉片がそろそろ解凍されそうな頃合いだった。


「体を張ってこの化け物を食い止めてろ!」


「ほげえええええええええええ!!!」


 白目をむくミンシー一人を最前線に置いて、ヒルデは全力で後退した。

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