第46話 キリア大聖堂での戦闘(7) ハンマー

 最前線を一任されたミンシーは、目の前の巨大な化け物に対峙し……冷血上司への罵詈雑言を、頭の中で駆け巡らせていた。


(ヒルデ様信じられない、なんて冷たい鬼畜冷血漢!)


 聖なる鉄槌ホーリー・ハンマーは打ったら勝手に動いてくれるわけではなく、術者がそれを操作する必要があった。

 

 先ほど凍結が解けて復活した死霊傀儡は今、ハンマーを潰そうと奮闘していた。こっちをパンと叩き逃げられ、そっちをパンと叩き逃げられ。

 ちょうど人間が蚊を潰そうとする様子とそっくりだった。

 死霊傀儡はすっかりハンマーに気を取られ、エスペルとライラの存在すら、今は忘れているようだ。


 ミンシーはハンマーを操作して、ハンマーを死霊傀儡の魔の手(まさに魔の手)から逃げさせまくっていた。

 ひょいと避けては死霊傀儡の頭をボコッと叩き、ひょいと避けてはお尻をペシッと叩き、ひたすら死霊傀儡を苛立たせた。


 ハンマーを操作しながら頭の中はヒルデへの悪口でいっぱいだった。


(ヒルデ様は感じ悪いし人使い荒いし感じ悪いし、だからメイドさんたちの「城男子人気ランキング二十代部門」で毎回ぶっちぎりワースト1な感じなんですよー!体張れとか嫁入り前の娘に言うことですかー!?実戦初戦の新人ですよ私!魔法学校卒業したばっかですよ!『ここは俺に任せて下がっていろ(キリッ』とか言うのが普通じゃないですか!?……ああ、こんなこと一度本人に面と向かっていってみたいなあ、なーんてね……)


「モジガシデ……コレ、オマエうごガジてル……?」


「ふぁっ!?」


 突然話しかけられて、ミンシーの思考が中断する。

 死霊傀儡が、赤い目でじっとミンシーを見つめていた。


「オマエ……ダろ……」


 うっとおしい憎きハンマーの動きを操作してるのがミンシーだと気づいたようだ。

 ミンシーはおののきながら、首をふるふると横に振った。


「ち、ちが、ちがいますよお、何言ってんですかあ、そんなわけないじゃないですかああーーーー」


 死霊傀儡の赤い目が、三角になる。


「オマエ!うソヅギーーーーーー!!!」


 死霊傀儡が、仁王立ちして両腕をあげた。


 まさに、威嚇する熊のごとし。


 死ぬ。


 と思ったミンシーは、本能のままにその言葉を叫んだ


「お母さああああああああん!!」

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