第44話 キリア大聖堂での戦闘(5) 硬い傀儡魂

 死霊傀儡がグリグリと拳を剣に押し込んで来た。

 エスペルの腕はぷるぷると震え、額には脂汗がにじみ出ていた。

 踏ん張る両足が、ズズと後ろに滑る。体ごと押される。


 エスペルは息を整えながら、技名を唱えた


「——炎斬剣ザン・ガエン!」


 途端に、ただの神霊剣が燃え盛る炎の剣に変化した。

 剣技と魔法の組みわせ、「魔剣技まけんぎ」。

 剣と魔法を極めし者、すなわち「聖騎士」のみが使える技である。


「フンガッ!?」


 剣に拳をめり込ませていた死霊傀儡は、熱がってその拳を離した。


 エスペルはその足元に走り込んだ。

 のこぎりで巨木を倒すように、巨大な足に刃を垂直に入れたまま、走り抜ける。

 そして一気に切断。


「グガアアアアア」


 片足を失い敵は吼える。

 エスペルは瞬時に踵を返し、もう片方の大足まで駆け込むと、また一太刀で駆け抜けの大切断。


 両足を失い、倒れくる巨体を俊足で交わし、


「——風魔法ウェンディノ跳躍ローカスト


 術名と共に軽く三十メートルは飛び上がると、上空からその巨体めがけて落下する。

 落下のエネルギーと共に、縦一閃。


 その巨体が真っ二つに分断された。


「わわわわわ私一体今、何を見ているんでしょうこれは夢でしょうかっ」


 ミンシーがエスペルの超人っぷりにおののいている。


 死霊傀儡を切断しながら着地したエスペルは、ふうと息を吐き、ライラを見た。


 そこには、両腕を突き出し、顔をしかめているライラがいた。


「?どうしたライラ?」


「こ、この傀儡魂ギミック・セフィラ、硬い……!破壊できなったっ……」


「なに?」


 エスペルも霊眼を発動させ、「見る」。そしてライラが硬いと言っていた意味が分かった。


 妙な防御術が、施されていた。

 

 この巨大な死霊傀儡は、赤い傀儡魂ギミック・セフィラにあやしい黒いつぶつぶがくっついていた。

 いままで、死霊傀儡へのセフィラ攻撃は全てライラに任せてはいたが、後学のために毎回、霊眼の発動と観察は行ってきた。


 こんな傀儡魂ギミック・セフィラは見たことがなかった。

 

 エスペルもとりあえず一発、放つ。魂を破壊する呪殺の念。


破魂クリファ・セフィラ!」

 

 効果を凝視した。


 エスペルが念を放った途端、粒子つぶつぶはアメーバ様に形状変化した。

 分厚いアメーバは、赤い傀儡魂ギミック・セフィラ全体を黒く覆い隠した。

 

 破魂クリファ・セフィラが通り過ぎると、傀儡魂ギミック・セフィラを覆っていたアメーバはシュルシュルと縮んで、粒子に戻った。


 傀儡魂ギミック・セフィラは傷一つついていなかった。


 粒子はまるで微細な生き物のように、傀儡魂ギミック・セフィラを守る護衛たちだった。


 そうこうするうちに、エスペルのばらした死霊傀儡の肉片は、もう寄り集まり形を成し始めていた。


「なんだあの、つぶつぶ……!そうだ、氷結させられないか?」


 エスペルは手の中に冷気の塊を作った。


「ライラ!今からあいつを凍らせる。凍ったらセフィロト攻撃してくれ!」


「わ、分かったわ!」


極大氷結玉テラ・クリンガ!!」


 エスペルの手から放たれた巨大な冷気の玉が、今まさにその形状を復活し赤い目を光らせたばかりの死霊傀儡に直撃する。

 見事、氷結。瞬時に凍りついた。

 巨大な死霊傀儡は氷の像となった。


 ミンシーが口をあんぐり開けた。


「詠唱もなしで極大魔法!?しかもあの馬鹿みたいな威力!?」


 続けざまにライラが、


傀儡魂ギミック・セフィラ、破壊!」


 ライラの攻撃を受ける傀儡魂ギミック・セフィラの様子を、エスペルは固唾を飲んで観察した。しかしその期待を込めた顔が、悔しさに一気に崩れる。

 体は凍結しても、あの「つぶつぶ」は凍結させられなかった。


 またぞろ、粒子はアメーバ化して傀儡魂ギミック・セフィラを覆い隠し、守りきったのだ。


 エスペルはいらだたしげに、右の拳で左の手のひらを打った。


「くそっ!一体、どうすれば……!」

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