第43話 キリア大聖堂での戦闘(4) 巨大死霊傀儡
ミンシーがガクガク震えながらヒルデに問いかける。
「どどど、どうしましょう!?」
ヒルデの瞳に、覚悟の色が宿る。
「この場に引き止める」
「どうやって!?」
「こちらから手を出せば、死霊傀儡は殺意を抱き攻撃してくる」
「えっとつまり……。あれと、戦っちゃう感じですかーーーー!?」
「そういう感じだ!」
ヒルデは両手を合わせ、目を瞑ると詠唱を始めた。
「第二の死を乞い求める地獄の亡者よ、汝の望みは我が叶えん!霊界よ彷徨える死者に今一度死を与えたもう!」
詠唱中、ヒルデの周囲に白い陽炎のようなものが立ち上った。
陽炎の中から三日月のような形をした白い光が、ヒルデの周囲に数多出現した。
ヒルデが目を見開く。
「切り刻め、——
術名と共に、三日月は死霊傀儡を目がけて飛びすさっていった。
三日月は死霊傀儡の太すぎる両脚を集中的に狙った。
大木のような二本の脚に、数多の聖なる刃が斬りかかる。
「グんガあ!?」
突然の痛みに、死霊傀儡が変な声を出した。神殿破壊活動を止めて、痛む下半身を見下ろす。
もう、両脚はなくなっていた。
目視できないほどの速さで、ヒルデの放った聖なる刃は、死霊傀儡の両脚をミンチのように切り刻んでしまっていた。
「さ、さすがヒルデ様の詠唱付き魔法っ!」
同じ魔法でも詠唱付きだと威力が大幅に増幅されるのだ。
どさりと顔から転倒する死霊傀儡。
すかさずヒルデは第二弾を放つ。
「
今度は右腕をめがけて、三日月の刃が飛んで行った。
だが詠唱なしなので先ほどよりは威力が劣り、右腕の長さが四分の三程度になっただけだった。
「グんガガガガあーーーー!」
両足を失った死霊傀儡は伏せた顔を持ちあげ、ヒルデを見た。
赤い目が殺意を宿し、その光をいや増す。
腹ばいの体を腕のみ使い、死霊傀儡は這ってヒルデに近づいた。
そしてうつ伏せのまま、無傷の左腕をヒルデに向かって振るった。
巨大な拳がヒルデを守る防御球をぶん殴った。
防護球にひびが入り、ヒルデが顔を歪めた。
「くっ……!」
再度、死霊傀儡は防御球を叩いた。今度は平手で。
バリン、と防御球が砕け散った。
「二発で割るか、このバカ力がっ!」
防御球なしの生身の体に、死霊傀儡の三発目が振るわれる。
後ろに飛びすさりながら、間髪入れずに展開したヒルデの新しい防御球が、すんでのところで三発目を防いだ。
だが、新しい防御球にもひびが入る。
「あわわわわわわわ」
ミンシーは列柱のあった場所から一歩も動けず、震えながら事態を見つめていた。恐怖で虚脱状態に陥っているようだ。
ヒルデは死霊傀儡から距離を取るべく走り出した。
なんとか長い腕のリーチから抜け出たが、ミンチ状にした両脚の肉片がもう蠢いている。
足が復活して動きを取り戻したら、あのリーチから逃げ惑うことは不可能だろう。
もう一度詠唱付きを、とも思うが、逃げ惑いながらは発動出来ない。
「万事休すかっ……」
その時ようやく、待ちかねた声が頭上から響いた。
「カアー!カアー!ヒルデ様、只今戻リマシターーーー!」
「うわわ、ヒルデ、戦ってんのか!?なんだそのでっかいの!」
巨大カラスの背中にしがみついたエスペルが、見下ろしながら叫ぶ。
ヒルデが歯ぎしりした。
「のんきな声を出しおって!早くこいつを始末しろっ!!」
エスペルの声に反応し、死霊傀儡の動きがピタリと止まった。
その赤い目がいきなり三倍くらい光度を増した。
巨大カラスが、すっかり廃墟と化した円の神殿のはじっこに舞い降りる。
死霊傀儡はカラスから地上に飛び降りたエスペルとライラに振り向いた。
その姿を認め、歓声をあげた。
「フオオオオオーーーー!エスぺる!らイラあ、見ツケたーーーー!!!」
喜びで活性化したのか、ひき肉のようになっていた肉片が、すごい速さで死霊傀儡に集まった。
両脚も、短くなっていた右腕も一気に復活し、むくりと起き上がった。
ライラがその巨体を呆然と見上げた。
「こっ、こんな大きい死霊傀儡、初めて見たわ!」
死霊傀儡が右腕を振りかぶった。と思うやその巨体がジャンプした。
ドシンという轟音とともに、一飛びで目前まで来た闇色の巨体。
そのどでかい拳が、エスペルの頭上めがけて振り下ろされる。
「くっ……!」
すんでのところで、エスペルは剣で拳を受け止めた。
とてつもない重量だった。
遠目に放心していたミンシーが息を飲んだ。
「あ、あの化け物を剣一本で支えてる!?あれがカブリア王国の聖騎士サマ!噂どおりのド超人っっ!」
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