第14話 小さい羽の少女(4) 出来損ない

 その瞬間、視界が真っ白な光に焼かれエスペルは目を閉じた。


 目を開けると、丈高い草が生い茂る原野にいた。


 腕はしっかりとライラに掴まれたままだ。


 空を見上げ太陽の位置で東西を把握した。東、百メートルほどの距離に帝国の立派な長城が見えた。


「トラエストに戻って来た!?」


 トラエスト帝国とカブリア王国の間には広大な人の住まない原野が広がっており、行き、エスペルは馬を走らせて三時間かかった。

 

 その距離を、一瞬で移動したのだ。


「ええ、人間の住む所……。私以外のセラフィムはここまで来れないわ……」


 ライラがうつろな表情で答える。


「なに?」


「私は異常体、出来損ないだから、神域から離れても平気……」


「一体どういう、いや、いい。なぜ俺を助けてくれたんだ?」


 青ざめたライラの顔に、一瞬だけ微笑が浮かんだ。


「あなただって。私はただ、借りを返しただけ……」


 ずるりとライラが崩れ落ちた。


 野草の中に倒れる。


「どうした!」


 エスペルは身を屈め、ライラを抱き起こした。ライラはどんよりした瞳で宙を見つめた。


「神様から遠すぎる……。ここは下界……。セラフィムの生きていけない、汚れた空間。異常体の私でも少しつらい」


「汚れた空間?おい、しっかりしろ!」


「力を使い過ぎちゃった。もう私は無理よ。あなただけ逃げればいいわ」


「な、なに言ってんだ!」


「みにくい……」


「え?なんだ?」


「醜い……矮小羽……何者でもない……神に見放されし……」


「ラ、ライラ?」


 ライラの目尻から涙が一筋、流れ落ちた。


「なんで神様は、私に大きい羽を……くれなかったの……かな……」


 ライラが目を閉じた。


「おい、ライラ!目を覚ませ!ライラ!!」


 エスペルはライラの身を揺さぶった。だがもう何も言わない。


 エスペルの霊眼が、ライラの魂の姿を映し出した。

 ライラの残り二つの魂構成子セフィラが、弱々しく明滅している。


 命の灯火が、今まさに消えようとしていた。

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