第4話 地獄の六日間(2) 神の御使い

 五日目。


 ブーン……という重低音の羽音を響かせながら、セラフィム達は小隊の斜め上で空中停止飛行していた。


「我々はセラフィム、神の御使い。低次生命体、汝ら人間を浄化するために来た」


 真ん中のセラフィムがそう告げた。

 セラフィムの襲来から五日目のことである。


 同じセリフを多くの者が聞いている。命を散らした国内外の多くの兵士たちも、何が起きているのかすら理解出来ない赤子も。


 背中に二枚の大きな透き通る羽を生やした、侵略者たち。


 この五日間、セラフィムは人間を無差別に殺戮した。

 戦場はカブリア王国内に限られていた。犠牲者は五十万人に達しようとしている。初日の被害が最も大きかった。


 王国軍は既に壊滅した。

 援軍にかけつけた帝国軍と盟邦軍も、今また壊滅しようとしている。


「撃て!」


 隊長の号令と共に、盟邦スカジ王国の小隊の弓兵たちが矢を放った。

 昨日カブリア王国入りしたばかりの、この小隊は、セラフィムとの戦闘はこれが初めてであった。


 ゆえに、驚きの表情を浮かべた。

 セラフィム相手に弓矢が効かないことに。

 情報としては聞いていたが、信じてはいなかった。


 まるで幽霊だった。


 弓矢はその体をむなしく素通りし、無傷のセラフィム達は例の冷たい眼差しで、兵士たちを見下ろしていた。


「ば、ばかな……!」


「魔術兵、前進!」


 二度目の号令と共に弓兵が下がり、フード付きローブを着た魔術兵たちが前に出る。


「火炎術、撃て!」


 魔術兵たちの手から火の玉が放たれた。

 炎と煙に包まれるセラフィムたち。


「やったか……?」


 期待を込めた目で、煙が引くのを待っていた小隊は、やがて絶望の表情を浮かべた。

 火炎攻撃もまた、セラフィムたちには無意味だった。焦げ目一つ付けていない。


「そ、そんな!」


 す……っ、と、セラフィムたちは手を挙げた。その手のひらが、こちらに向けて押し出される。


 同時に、小隊は壊滅した。

 全員が即、息絶えたのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る