第3話 地獄の六日間(1) 天空宮殿

 一日目。


「蓮の花が開くように」


 かの奇跡的な一枚、「セラフィムの天空宮殿」絵画を描いたトラエスト帝国飛空船の副船長は、そう証言した。

 彼の隣で飛空船を操縦していた船長も、その言葉に首肯した。


 その宿命の日、彼らはたまたまカブリア王国上空を、視察飛行中だった。


 定期的に上空を飛ぶ、帝国の三ツ星紋章入りの飛空船。カブリア王国のような帝国支配下の国々において、それは馴染みの風景であった。


 その日、カブリア王国は雲ひとつない晴天だった。

 飛空船が前方に、白亜に輝く卵形の物体を確認したのは、ちょうど正午だったという。


「なんだ、あれは……?」


 物体までの距離から計算して、それがとてつもなく巨大なものであることは明らかだった。


 目を見張る船長と副船長の前で、その卵形の物体は、「蓮の花が開くように」開き、宮殿に変化したのだと言う。


 その光景を目に焼き付けたのが、絵の達者な副船長だったからこそ、かの奇跡の一枚は生まれた。


 王国の上空に突如出現した、「セラフィムの天空宮殿」絵画。


 丸い屋根や列柱やアーチや塔が、壮麗に組み合わされた、この世ならざる美しさをもつ建造物。


 人類の敵であるセラフィムの、忌まわしき天空宮殿である。


 見惚れたように放心している副船長の隣で、船長は本能的な危機感を覚えた。


「まずいっ!百八十度旋回!帝都に帰還する!」


「はっ……、りょ、了解!」


 船長のこの判断により、彼らは命拾いした。


 宮殿の出現後しばらくして、セラフィムたちによる、大量虐殺が始まったのだから。

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