第9話 幕間 お化け屋敷

 今日もお母さんとお父さんが喧嘩している声が聞こえる。引っ越ししてくるまでそんな事一度もなかったのに。あんなに嬉しかった1人部屋も今は全然嬉しくない。みんな遊びに来るのを嫌がるようになったし…。

 何か物を投げてそれが壁にぶつかる音が聞こえた。それに続く怒鳴り声。


「なんでこんなことになっちゃったの…?」


 声に出したらすごく悲しくなって涙も出てきた。前の優しいお母さんとお父さんに戻ってよ…。学校に行ってもなんだか楽しくなくて、だるくって、今は休み時間も席でぼーっとしてばかりになっちゃった。

 うちでも学校でもつらい。居場所がない気がする。


 ダンッダンッダンッ


 階段を上がってくる足音がした。ノックもなくドアが開いて、怒った顔のお父さんが入ってきた。すごく怖くて縮こまってしまう。


「陽!お父さんとお母さんが離婚したら、お前どっちに着いてくる?」

「ちょっと!そんな事いま陽ちゃんに言わないでよ!」


 走って後を追いかけてきたお母さんが部屋に入ってきた。


「煩いっ!大切な事だろう!陽にも前もって心構えを…」


 2人が喧嘩の場面を変えてまた怒鳴り合っている声が遠くに聞こえた。なんだか息苦しい。本当に…息がっ…目の前が段々暗くなって…


「陽?!」

「陽ちゃん?!」


 その日、どうやら僕は過呼吸というもので倒れてそのまま意識を失ってしまったみたい。次の日、目が覚めたら疲れた顔のお母さんが頭を撫でながら教えてくれた。


「ごめんね。陽ちゃん。すごくストレスだったのね」


 悲しそうな顔で僕を見て謝ってくれた。僕は疲れてなんだか返事をするのも億劫でそのまま話を聞いていた。良かった。今日は前みたいに優しいお母さんだ。


「でもね。もう、どちらに着いてくるか選ばなくちゃいけないのよ?だからなるべく早く決めてくれると助かるわ」


 お母さん…。


 その日の夜、僕はなかなか寝付けなくて窓のから外を眺めていた。

 お向かいの洋館(なかなかゴージャスだ)は今は誰も住んでいないみたいで、僕らの間ではお化け屋敷って呼ばれている。先月くらいに取り壊し業者が一度来たけどすぐに来なくなってそのまま放置されている。

 ショベルカーもそのまんま。ちょっとだけ壊された家は夜になると、すごみが増してさらに怖くなる。


「人・・?」


 洋館の2階の窓に人影が見えてドキッとした。誰かが不法侵入でもしたのかな?よくよく目を凝らしてみてみると、人が窓にベタッと張り付いてこっちを見てニヤニヤしていた。


「ひっ!」


 ベッドに駆け込んで布団を頭からかぶった。ぎゅうと縮こまる。手足を出すのが怖くてそのまま震えた。


 ギッ…


 ベッドに誰かが乗ったようなきしんだ音がした。そのあと、布団の上から誰かが覆いかぶさってきた!


「聞こえてるんダロ?なぁ、聞こえテるんダろ?」


 怖くて怖くてガタガタ震えていたら、耳元で変なしゃべりかたで話しかけられた。


「聞こえてルんだろ?なぁ!きききこえてるるンだろろろロロロォォォ!!!」


 ベッド全体をガタガタ揺さぶってそいつが叫んだ。

 僕はあまりの怖さにそのまま気を失ったらしく、目が覚めたら朝だった。

 その日から、僕はお化けが視えるようになっちゃったんだ…。

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