第8話 センスが壊滅的
いってぇ。なんなんだよ、これ。
最上ちゃんが何やら言い出して訳も分からず連れまわされたあげく、これだ。でもポルターガイスト?っての?それは初めて見たぜ。すっげー痛かったけどな!
「で?これ、一体なんなんすか?」
事と次第によっちゃ許さんぜという気持ちをにじませて2人を睨んだ。
「ごめんなさい。まさかこんな事になるなんて予測できなくて…痛かったですよね?本当にごめんなさい」
最上ちゃんがうるうるした瞳で俺を見上げて謝罪した。これはこれで悪くない。しかもなんかいい匂いがする。
「過ぎた事を言っても仕方ないけど、説明はしてもらえるよね?」
「はい。
…私、アレ―いわゆるお化けが見えるんです。それで、この本社内にも幾つかそのお化けがいる所があって、ここの書庫が本社内で一番性質が悪いお化け…今となってはお化けと評していいのか迷いますが、そのお化けがいてですね。
実はさっきの第2会議室にもいたんですけど、加神さんが会議室に入った途端、弾けて消えたんです。それでもしかして、加神さんにはそんな力があるんじゃないかと思って、2階の給湯室で仮説検証をと。
ただ、その時はまだ私の思いつきでしかなかったので、お2人には言わずに連れまわすような形になってしまいました。それに、突然そんなこと言われても困るじゃないですか。
で、実際2階でも弾けて消えて、この書庫の本社内で一番最強と思われるお化けを同じように消したら、加神さんの力が計れるかな…って。」
表情と態度は神妙だが、なかなかえげつないな、この子。
「で?無事に消えたの?」
「はい。それはもう、スッキリと!想像以上でした!加神さん凄いです!!!」
ぐっと拳を握って、うるうるした瞳で上目遣いに俺を見た。あざと可愛いな、おい。そこまで言われちゃ俺だってこれ以上ことを荒立てるつもりはない。
「加神君っっっ!!!!!」
急に、俺と最上ちゃんの間を割って丸山が入ってきて俺の手をぎゅっと握った。
「君、本当に逸材かもしれない!!!!絶対に辞めないでね?ねっ?!ねっ!」
近いちかい!顔が近い!どんどん顔が近づいてくる!俺にそんな趣味はねぇ。手を放せ!顔を近づけるな!!!最上ちゃんはそんな俺らを見てうんうんと頷いてニコニコしてるし、丸山は暑苦しいし、書庫の中は惨憺たる状態だし、なんだこのカオスな空間は!
それにしても丸山、お前、面接の時と今朝と今とじゃえらいキャラの崩壊っぷりだな。
でもまぁ、前の職場に比べれば直属の上司にあたるこいつはイイヤツかもしれねぇな。
「丸山さん、他のチームの現場でも回って検証してみません?」
「おぉ!それはいいな!是非そうしよう!今いちばん手こずってるさくら組から回ってみようか!」
宣言撤回。こいつはクソ認定だ!最上ちゃんアンタやっぱり可愛い顔してえげつねぇな!
「さくら組ってなんすか?幼稚園みたいな組名っすね…」
「えぇ!?可愛くないですか?」
最上ちゃん、そんな驚くことか?顔がマジだぜ。センスが昭和だな。
「チーム名を花の名前にしているんだよ。チーム名だけでも明るく華やかにしようかなって…」
「マジかよ。他になにがあるんです?」
「スイトピー組と、すずらん組と、君が担当するたんぽぽ組だ!」
「だっさ!!!!!」
思わずつっこんでしまう。たんぽぽて!全部微妙だけど、たんぽぽはないだろ、たんぽぽは。マジで保育園かよ。てかなんで2人して落ち込んだ顔してんだよ!センスが壊滅的なチームだな!
「和やかで可愛いじゃないですか…事故物件なんて殺伐としてるんだから、チーム名くらい…」
お、おい。そこまで落ち込むなよ。さすがに罪悪感が…。
「わ、悪かった。あまりにも斜め上の名前だったから」
あんまりフォローにもなってない気がするが、これ以上言いようがない。
「1ヶ月も悩んで、候補もたくさん出して選んだのに…」
1ヶ月?!こいつら実は暇なんじゃねーか?これ以上この話を引っ張っても仕方ない。次へ進めよう。
「だから、悪かったって。な?落ち込むなよ…名前は分かりました!で?いつさくら組(やっぱだせぇ…)の現場に行くんすか?」
最上ちゃんは未だジト目で俺を見ているが、立ち直った丸山がスマホでスケジュールを確認し始めた。
「うーん…急で申し訳ないけど、明日、高知に飛んでくれる?」
「高知?!」
「うん。ちなみに、たんぽぽ組が次に控えている現場は沖縄だからね?」
「マジかよ!分かってたけどすげぇな」
「最上さん。君も明日加神君と一緒に高知に行ってもらえるかな」
「え?!私がですか?」
「うちの部で目視できるのは、今のところ君だけだ。加神君も視えないみたいだし。検証するなら本社の人間が見ないとね?」
「うぐぐぐぐぐ…ワカリマシタ」
そんな嫌そうな顔すんじゃねーよ…さすがの俺様も傷つくぜ…。
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