第5話 オイシイ仕事の正体
丸山から思わぬ方向性に飛んだ説明を聞いて、思わずフリーズしてしまったが、その事故物件の何がまずいのか、何がお手上げなのか疑問に思った。
「事故物件の解体が専門だという事は理解しました。ですが、何がお手上げなんですか?心理的瑕疵ありということは、その物件そのものの構造だとかに問題があるわけではないんですよね?」
「うん。そうなんだよ。我々は建築物解体のプロだからね。解体作業自体は専門的なノウハウを持っている。ただ、君が扱う事になる物件てのはそういうものじゃない。もっとズバリ言うとだね、心霊現象で妨害が起きるんだよ」
「しんれいげんしょう…ぼうがい…」
ちょ、ちょっと待て。俺はいま「心霊現象」と聞いたんだよな?正直、なに言ってんだこいつ。担いでんじゃねーぞ、と反射的に思ってしまった。
だが、丸山はいたって真剣な表情のままだし、アシスタントの最上ちゃんも真剣な顔をしてこっちを見ている。
それにしても最上ちゃんおっぱい大きいな。第一印象は、陰気なタイプだなと思ったが、よくよく見ると美人カテゴリーだけど、可愛い寄りの美人で、男心をくすぐる。その顔でそのボディー、なんと罪作りな子なんだ!
「確かに、突然そんな話を聞かされても理解不能だよな」
俺が最上ちゃんを見てガールズウォッチスカウターを発動させていると、丸山が話し出した。そうだ。忘れていた。俺は今、業務内容を説明されていたんだった。危ないあぶない。
「えぇと、確かに理解が追いついていないのですが、とりあえず説明を続けてください」
「うん。質問はあとで受け付けるから、まずは聞いてくれ」
丸山が説明してくれた業務内容はこうだ。会社は主に解体業務がメインで、あとは売買・賃貸などの不動産関係やグループで小売業なども行っている。いわゆる地域密着型の事業展開をしつつ、全国規模で解体業務をやっているのだ。
自社ラインの物件などはもちろん、他社からの要請で解体業務を請け負っている。
解体業務はまずメインである表側の第1解体部門が行う。
そこで、事故物件を解体した際にいわゆる心霊現象的な妨害が起きたら、その物件は裏側の事故物件を専門に扱う第2部門へバトンタッチする。
ただし、この部門は世間様に大っぴらにされていないため、少数精鋭で行っているとのこと。3チームあり1チーム最大7人で、作業員は日本に出稼ぎに来ている外国人だと言うのだ。何にも分からない外国人を、事故物件にあてる…闇だな。うん。
で、日本人は彼らの監督(監視)というわけ。なぜならば彼らはすぐに休む(サボる)からだ。
専門部隊の人数に対して、案件の数が多いため(なにせ全国規模だ)ひとつの現場にだらだらと時間をかけていられないから、集中してサッサと終わらせなければならない。
そこで俺は1つ気になった。心霊にそれなりに心得のあるものがいるのか?という事だ。今のところそれを臭わせるような説明は一切ない。
「あのーところで、心霊の専門家はいるんですか?」
「え?いや?いないよ」
なんだよそれ!それじゃ事故物件専門とは名ばかりじゃないか!
「ちなみに、その外国人の人らは心霊現象には…」
「バッリバリ遭うね!」
「マジすか!大丈夫なんですか?なんか対処とか…」
「ないよ!」
「辞めないんですか?」
「辞める人もいるけど、ほとんどは続けるね。彼らはものすごぉぉぉぉおおおく!お金が欲しいからね。誰か辞めたとしても、その後ろには控え選手がいるから問題ないんだよ」
「そんなもんですか…」
「そんなもんだよ」
なんか、うまく言いくるめられている気がする…。
「加神君…きみ、初日で辞職とか考えてないよね?」
「え?いや…そこまでは。正直、ピンとこないんですよねぇ〜心霊現象とか。俺、全っ然感じたことも見たこともないですし。信じようがないっていうか」
「ほう!それはそれは頼もしい」
丸山がニヤリと笑った。
「俺も同じだったよ。今だに見えないが、信じざるを得ないというか、現場の状況を見てるとねぇ…いるんだろうなと」
「そんなもんですか」
「そんなもんだよ。まぁ、現場に入る前に一度他のチームを見学しに行こうか」
「そうっすね」
気づいたら口調が気安くなってしまっていたが、丸山は気にしてないみたいだしいいだろ。それにしても、訳あり案件とはなぁ…俺が今更ながらに条件に対して高収入の裏に思いを馳せていると、それまで黙ってやり取りを見ていた最上ちゃんが声を上げた。
「あの!その前にちょっと試してみたい事があるんですが、良いですか?」
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