第2話 オイシイ案件

「くぁ~っ」


 春は眠くてしゃーねぇな。欠伸ばっかり出る。

 あー…給付金受け取るためとはいえ、毎度毎度ハローワークに来るのもかったるい。つーか、こんな面倒なことになってるのも、あのクソ部長のせいだ。あの野郎、仕事できねぇクセにどうでもいい事ばっか目について、下の仕事増やしたあげく部下の手柄を自分のものにして、おいしい汁ばっかすすりやがって。

 そこつっこまれたら逆切れってなんだよ。

 役員も揃いもそろって事なかれ主義で臭い物に蓋をするとか、腐ってんな。

 あんな会社辞めて正解だったぜ。ま、お土産はたんまり置いて立つ鳥跡を濁しまくって出てきてやったけどな!


「…ん?」


 俺は1枚の求人募集に目を奪われた。


 現場監督 経験不問 35歳迄 不動産関係 月給300,000~

(試雇期間200,000)※即日


 な、なんだこんなにオイシイ案件は!俺は思わず声を上げそうになって、慌てて口を押えてから周りを見回して誰も気づいてないか確認する。それから職員に話を聞きにカウンターにスキップしながら向かった。

 何か色々と細かい部分が抜けてる気がするが、こんなにおいしい案件、逃さない手はない。




「ほぅ…ここか」


 俺は面接の例の会社に来た。予想以上に大手の会社で、そびえ立つビルを見上げた。今日は日本晴れだ。幸先いいじゃないか。…ガラスに太陽が反射してすげぇ眩しい。


(お?受付嬢も上玉じゃねぇか!)

 エントランスに入って受付カウンターを見ると、なかなか美人な子が2人座っていた。ふむふむ。これは従業員も期待できるかもしれん。


「本日、10時から人事部の丸山様とお約束をしている加神と申しますが」


 俺は渾身のアルカイックスマイルを惜しげもなく披露した。


「加神様ですね。お待ちしておりました。丸山が参りますので、おかけになってお待ちください」


 応対してくれた子がニッコリと笑ってエントランスのソファーへ促した。

 おうおう。いいじゃねぇか。これぞ、大手!俺はご満悦でソファーの方へ向かった。


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加神道真かがみ どうしんか…ふぅん。読みは違うが、道真公と同じか。名前だけはありがたい響きがするな。まぁ、続いてくれるなら正直誰でもいいんだが」


 受付から連絡が来て、加神との面接に向かうべくもう一度履歴書と経歴書に目を通した。元は中小企業の営業で、そこそこ実績も良かったらしい。

 本来ならばこの案件は秘密裏に募集するものなんだが、表で採用して裏で違和感がないように配属先を変える。そうすれば続けられる人間が来るだろうという上の考えだ。正直、浅はかだとしか思えないが。

 働く奴に借金があっても問題ない。むしろある方が助かる。必死になって職にしがみ付くからだ。

 前の奴も頑張ったんだが、元々神経が細かったんだろう。精神が参っちまった。

 報酬はうまいが、業務内容が内容だけに、人によっては真っ黒だと言うだろう。まぁ実際、続いても2年が最長だった。


「今回の奴はどれだけ踏ん張ってくれるかな」


 ポーン


 エントランス階にエレベーターが着いた。

(さて、適正くらいはあるか見に行くとするか。しまった。最上連れてくれば良かったな)

 アシスタントの最上も面接に同席させれば良かったと歩きながら思った。最上はまさにこの案件にうってつけなのだ。本人は嫌がってて部署異動願いを出しているが。

 面接、特に転職の面接なんぞ狐と狸の化かし合いのようなもんだ。お互いに社会人経験を積んでるからこその腹の探り合いってやつだ。

 いくら化かし合っても言葉では誤魔化せない部分がある。この案件に関してだけは、最上はそれをある程度はかることが可能なのだ。

 前任者を採用する時はまだ最上がいなかったために、それをはかる事ができなかった。ついつい、いつもの面接のクセで自分だけ来てしまった。


「まぁ、よっぽどじゃない限りは採用するし、それから最上に見てもらえばいいか」


 俺は、加神らしき人物の方へ足早に向かった。

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