後編 古室の気持ち

 屋上は風が強く吹いていた。なんならちょっと雪が降ってる。


「古室君、ついてきてくれてありがとう」


「…いやそんなのは別にいい、ところで用って何?」


「実は私、文化祭でダンスを見た時からすっかりファンになったんだ。というより好きになっちゃった」


「はぁ」


「だから私と付き合ってほしいの」



「……ダンス部に入ってくれるのかと思ったけど…そういう話だったか」


「もし私と付き合ってくれたらダンス部のマネージャーでもなんでもするよ」


「…すまんがお前とは付き合えない、じゃあな」



「ちょちょっと待って! なんで私と付き合えないの!?」



「なんでって、好きでもないからな、これでいいか?」



「友達、友達からでいいからせめてLINE交換してよ!」

(上目づかい上目づかい)



「ごめん、それもできねぇ、俺は好きになったやつにしかLINE教えたくねぇんだわ」


 

そういうと女の子は何も言わなくなり後も追ってこなかった。


 俺と新城が出会ったのは春のこの屋上、俺は良い練習場が出来たと思い、スマホに取り込んでおいた曲で踊っていた。


 いつかはプロのダンサーになり、先生になってみたり、世界を舞台に戦ってみたい。ちなみにダンスを始めた理由は俺はどうも無愛想らしく、できればダンスを通して色んな人と繋がれたらいいなと思っている。


 まだ高校生だがもう高校生、モヤモヤしている時に新城が俺のダンスを見てこう言った。


 体で歌を歌っているみたいだと。


 体で歌を歌う、それは俺がダンスに求めているイメージに合っている言葉だった。


 そう言われて単純に俺がやってきたダンスもまんざら間違ってはなかったのかも知れないと思った。


 新城はアホだが素直に思った事は基本的に言葉滑らせる。だが最近はなんだか無理をして何かを言わないように気がしている。


 心配だから毎晩連絡してやってんのにあいつはどうでもいい話ばかりする。だから今日こそは問い詰めて話を聞こうと思う。


 無愛想と言われ人に少し距離を置かれるこの俺の壁を簡単に砕く、あの馴れ馴れしい態度と、あいつの屈託のないアホな笑顔が好きなんだ。


 俺は急いで階段を降りて下駄箱に急いだ。


 新城はもう帰ってるよな、もういないかな。


 急いで靴を履き替え外に出て新城がいないか探す。


 校門辺りまで走ってみると見慣れた後ろ姿を見かけた。


「新城〜!」


 新城はこっちにゆっくりと振り向き、まるでオバケにでも会ったかのような顔をして泣いていた。


「なんで泣いてんの?」


「うっさい」


 いつもならニコニコしてるこいつなのに一体どうしたんだ。


「お前は初めて会った時から無愛想って言われる俺にウザい感じで話しかけてきた女なんだからよ、早く笑えよ」


「なにそれ」



「なんだろな」


 


「ところでよ、お前に聞きたい事があるんだけどさ」



「…それなら私も、あんたに言いたい事があるのよ」


「そうかい、じゃあ立ち話もなんだから歩きながら話そうぜ」


 

 しとしとと雪が強く降り、空はとても白かった。



 まるで数分後の俺達の心のように真っ白なシンプルな白さだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

未送信メッセージ ぴで @pide

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ