第68話

この詠唱はユニークスキル『魔王』を認識した時から頭に浮かんできたモノであった。それを『怠力』によって解析し魔王を使うにあたって必要なモノであることがわかった。


「これ、趣味じゃ無かったら呑まれてるかもしれないな。」


魔餓魔餓(禍々)しい王となれ、そんな自己暗示と共に勝利に渇望する魔王となるアーレギオン。だが自我は彼のままであった。


「しかし気分はノブナガっていうより悪神的な立ち位置かな?」


彼の根底はサボることにあり努力を怠る。


「悪神といえばインドラ?それともアジダカーハ?アンラマンユとかも良いな。このモードなんて名前つけよう?」


怠り続けることによって生まれる破滅は結果を知った破滅。


「うーん。」


惰性による結果を知らぬ破滅とは違う。


「ベルフェゴールとかもなんか違う気がするしな。」


自分の意思で破滅を望むのだから。


「何かあったかな。」


破滅を望む者に魔王は微笑む。


「開祖を失いし者(ロストファウンダー)が良さそうかな。」


開祖を失いし者、その名の示す意味は勝手な解釈をすることが許された者。


「さあ、魔王(サボり)の時間だ。」


先程からモンスターたちはゴーレムたちと応戦し疲弊しきっていた。そんな最中より強い魔力を感じとり本能の危険を察知した。


その時のモンスターが取った行動とは至極単純なモノだった。


逃走


本能がヤバいと警鐘を鳴らし続けたのだ。いとも簡単に思考を投げ出し逃げることにだけ頭を使う。それだけが生き延びる最善の選択であると信じなければならなかった。


ただし、その行動はもう一つの絶対的存在がいない時に限る。


「ヒャッハー、どういうことだ。俺様が脅かしてやったモンスターどもが退いてるだあ。ならもういらね、死ね。」


その人物は無詠唱でファイアーボールを唱えていた。それも億の位で


巨大なキノコ雲と共にモンスター達は悲鳴をあげる間も無く無残な姿で散っていった。


「さててめえが召喚者である俺様がけしかけたモンスターを殺した野郎だな。」


「お前は日本人、それも学生では無いな。」


「お、俺を知ってる口か。んじゃあてめえも悪魔に呼ばれてきたのか。」


「残念、俺はハッカー達とは縁が無くてね。間抜けにも女神のミスで死んだ口さ。」


「なら、俺と組まないか女神よりこっちの方が楽しいぜ。」


「アホ、俺はサボれる方がいいんだよ。てめえの指図受ける気はねえぞ渡辺。」


俺はコイツを知っている。


「んな、てめえ何もんだ。」


「元いじめられっ子の一人だよバーカ。」


オタク軍をこぞって虐めた悪しきリア充軍の大将渡辺春夫だ。

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