第三章 一緒に行くしかない
第一話 鳥じゃない
それはいつの間にか目の前にいた。
大型トラックほどの大きなカラス。いや。それには翼はあるが、羽毛はなかった。なぜ、カラスと思ったのか。それは、漆黒だったからだ。
ミハルもルリも、伊藤も、通りを塞いでいるそれに圧倒されていた。
「え。これ、なに?」
ルリが尻もちをついた。
「おれにもわかんねーよ」
伊藤も、ただ茫然としている。
辺りが騒然とし始めた。
このカラスもどきは、幻覚ではない。
「やべーよ……やべーよ」
伊藤が頭を抱え込む。ミハルは、とりあえず、その不可解なモノを触ってみた。
冷たい。だが、動いた。
「こいつ、もしかして、動物?」
ミハルが呟くと同時に、ルリが目を見開いた。
「なんか……聞こえる。乗れ、てこと?」
ルリは、何かに導かれるように、そのカラスもどきの背中によじ登り始めた。
「あぶない!」
ミハルはその未知のものの背中に乗るルリに警告を発した。
「……なんともないよ! みんなも乗りなよ」
ルリは平然としている。
「どこにでも連れて行ってくれるって!」
ルリは、そのカラスもどきと意思疎通でもしているのだろうか。そのカラスには、目もなければ嘴すらないのだが。
気が付くと、道路には車が何台も停車し、人だかりができている。明らかに、目立っている。
ミハルは、慌ててそのカラスの背によじ登った。
「伊藤、おまえも来なよ」
ルリは、興奮していた。明らかに人知を超えた何かを目の当たりにしているのだ。
だが、伊藤は、頭を抱え込み、うずくまった。
「もう、無理だ。もう、無理だ」
ミハルの耳に、辛うじて伊藤の呟きが聞こえた。
「ここに置いていこう。そのほうがきっと安全だ」
そうミハルが言うと、ルリは頷いた。
「だな。じゃあ、とりあえず飛ぶ?」
ルリがそう言うや否や、そのカラスもどきは、空中にいた。
はるか眼下には、町の光が見える。
「あれ? 飛ぶってこういうことだっけ?」
それはまるで瞬間移動だった。
「しかも、静止してるし、風の音も聞こえない。寒くもない」
ミハルはただ事実を数え上げた。まるで、そのカラスもどきのまわりに厚い空気の壁が出来ていて、ミハルとルリを守っているかのようだ。
「いったい、なんなんだこれ」
ミハルは絞り出すように言った。
「生き物ですらないのかもね」
ルリは黒曜石のような冷たいカラスもどきの体を手のひらで撫でた。
「これから、どうする?」
ルリは、こんな異常事態にも動じていない。ルリのなかで、何かが変化していた。
「ホタルのいるところに行こう」
ミハルは、意を決して言った。
「おっけー」
ルリが軽く言うと、その次の瞬間、ミハルとルリは、あの宗教施設にいた。あの広場だ。
「瞬間移動べんり~。っつか、これって乗り物なのかね」
ルリは満足げに言った。
「冬妻さんって、いったい何者なんだ」
地球の技術を超越した瞬間移動する乗り物をもち、それをルリに与えたホタル。
「七浦くん、あんたがいまさら言うことか?」
ルリは呆れたような表情で言った。そうだ。ミハルはホタルをよく知っている、はずだ。だが、このカラスのような乗り物のことなど、想像だにしていなかった。
ミハルは、辺りに注意を払った。ここに車で来るとき、警備の者が何人かいたことを思い出した。
ミハルたちは目立つカラスもどきと一緒に宗教施設の正門の内側の広場に突如として現れたのに、誰も駆け付けてこない。
「静かね」
ルリが言った。確かに、何も聞こえない。
「つか、わたし、ホタルのとこって言ったんだけど。どこにホタルがいるの?」
そうだ。カラスもどきは、おそらくルリがイメージしたところに瞬間移動する。空なら空。とすると、ここにホタルがいるのは間違いない。
ミハルは、何かが動くのを感じた。足元だ。
ミハルが下を見ると、広場の床がきれいに磨かれた白い石でできていることがわかった。
その白い石の中を、何かが横切った。
それは、宗教施設のなかにいた「月連」の関係者だった。
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