第十話 突っ込むしかない

 細かいことはどうだってよかった。図書館員遥子が白服の男の頭を覗いたとか。「王国」が自分たちを人質にとっているとか。ミハルは、ホタルが犠牲になるというところだけが、心に引っかかった。

「とりあえず、わしは言うべきことは言った。どうも『本』が近くにあるらしいということがわかったのでな。返してもらいに行かねばならぬ。では、な」

 図書館員遥子は、それだけ言うと、すたすたと校門から出て行ってしまった。もはや我関せず、なのだろうか。教師なりが追いかけてきそうなものだが、それもない。きっと、また何やら術でも使ったに違いなかった。

「遥子はともかく、ホタルはどうすんの?」

 ルリは真剣な表情をしていた。ルリは、ミハルと同程度には事態を理解しているようだ。

「いくら遥子がワケわかんなくてもさ、さっきのはウソとは思えないよ。実際、私らと一緒に帰らないのって、おかしいじゃん?」

「でもさ、おれらに何ができんの? 車もないぞ」

 伊藤が妙に冷静に意見した。

「警察に連絡するか? 女子高生が行方不明って」

 それが一番考えられそうな選択だ。しかし。

「あのカラオケボックスの件も、警察は動いてない。動いたかもしれないけど、集団行方不明事件なのにほとんど報道もされない。裏から手が回っているのは確かでしょうね」

 ルリが分析した。

「宗教団体だったら、ホームページくらいあるんじゃね」

 伊藤がそう言いつつ、携帯端末を操作した。

 ほどなくして、「月連」のホームページが開く。

―-月連。要約すれば、月から来た使者の技術で、人間を新次元に進化させるというのが目的のようだ。

 ミハルは、宗教団体のことなどよく知らなかったが、そんなものか、というようにも思えた。問題は、ホームページ記載の関連施設の住所が、東京になっている点だ。東京まで、ここから車で数時間、なんてことはない。つまり、さっきまでミハルたちがいた施設の住所は、そこには記載されていない。

「別に目隠しされてなかったけどさ。あそこがどこだか、わかんねーぜ」

 伊藤がつまらないことをわざわざ言った。ミハルもそうだ。タクシーの運転手に言えば連れて行ってもらえるところでもなさそうだ。

「衛星情報を使ったマップで何とかならないかな?」

 山中だったのは事実だ。だが、ミハルたちのいる町は、ほとんどが山だった。

 ふと、ミハルはルリの胸元に光るものを見つけた。ミハルはルリの操作している携帯端末を見ているつもりだったが、つい、そこに目が行ってしまうのだった。伊藤も、同じだった。

 それは、チェーンだった。

「川辺さん、ネックレスなんて着けてたっけ?」

 ミハルは、自分の視線にルリが気づいたかもしれないと思って、そう口にした。こんなときに。だが、何か重要なもののようにも思えた。

「あーこれね」

 ルリは胸元からペンダントを引き出した。

 それは、ホタルがルリに渡した銀色の金属片だった。

「あ、それ。冬妻さんがイザってときに噛めって言ってたヤツじゃん!」

 伊藤が指摘した。その通りだった。

「今がイザってときかも」

 ルリは、その金属片を数秒眺めると、口に入れた。

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