第八話 ついていくしかない
「王国」のほうから、ミハルたちを探し当てたらしい。あれだけの行方不明事件、警察が動かないのは、「王国」の力が事件をもみ消せるだけ大きいということなのかもしれない。もっとも、事件にするには証拠がなかっただけかもしれないが。
ミハルが身構えると同時に、エレベータが音もたてずに止まった。照明がつく。
誰もいない。きれいに掃除された大広間だ。ふだんはここで、何をするのだろうか、とミハルが疑問に思ったとき。
「こっちよ」
浅井は、ミハルたちを大きな扉の前に誘った。きっと、ふだんならその扉から信者たちなりが来るのだ。だが、浅井は「研究所」とも言っていた。ミハルは混乱した。
「あの……『王国』ってなんなんですか?」
その扉は、遠近感が狂うくらい大きいようだ。歩いている間、ミハルは浅井から何か聞き出そうとした。
「あー、うちの組織、『王国』みたいな身分制をとってるのよ。だから王子とかいるのよ。面白いでしょ?」
「じゃあ、研究所っていうのは?」
ミハルが違和感をもったのは、実は「研究所」のほうだった。「王国」は宗教団体ならなんとなくわからないではない。だが、「研究所」というのは、似つかわしくなさそうにミハルには思えた。
「うーん、簡単に言えば、何を信じるべきか、かな」
文系の研究所にしては、施設が大げさすぎるようにミハルには思えた。だが、浅井には、とくに隠していることはなさそうだった。ただ、まだ言っていないことはありそうだ。
浅井は、ゆうに五メートルはありそうな扉の脇にあるボタンを押した。掌紋認証なのだろうか、電子的な音が鳴り響く。
扉の向こうは、きらびやかに装飾の施された、祭壇だった。ミハルたちは、ちょうど扉を模した祭壇のなかからあらわれた格好だ。さっきまでいた広間と同じくらい広い部屋だが、やはり誰もいない。
「お祭りのときは賑やかなのよ、ここ」
浅井は、誰に向かって言うでもなく呟いた。
ミハルの鼻腔を消毒薬のようなニオイがくすぐった。
ホタルは、ふだんよりも無表情にミハルの後をぴったりとついてくる。
「冬妻さん。大丈夫かな」
ミハルは、ルリや伊藤のことを言ったつもりだった。
「ミハルだけはわたしが必ず守ります」
ミハルはけげんに思った。
異次元にも動じなかったホタルが、たかが地下を恐れている、とでもいうのだろうか。
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