第七話 秘密結社かもしれない

 その車は、高速道路には入らず、あまり信号のない下道を選んで走っているようだった。山中に入るまでに一時間、入ってから二時間程度だろうか。車は濃緑色の樹冠に覆われた二車線道路から側道に入った。

 しばらくして、山腹に建てられた大きな建物が遠く視界に飛び込んできた。

「宗教団体って、日本ではけっこうヒドイ扱いよね」

 浅井は運転しながらミハルに話しかけた。

「きちんと自治体の認証を受けている宗教法人なのだけれど、宗教団体ってだけでヘンな目で見られたり」

 ミハルには、宗教団体と宗教法人の違いもよくわからないし、運営の機微もわかろうはずもない。浅井は独り言のように言った。

「でもま、それはそれでイイコトもあるのだけれど。無理やり勧誘したりとかしなきゃ、ふつうの人が関心をもつことはないし」

 浅井の所属する「月連」が仏教系なのか神道系なのか、はたまたキリスト教系なのか、ミハルには想像もつかなかった。

 それにしても、浅井は、なぜ人の関心が薄いのがイイコトだとほのめかしたのだろうか。何か、世間から隠しておきたいことでもしているのだろうか? まるで、秘密結社のように。

 ミハルは浅井に不信感を募らせた。ホタルは、窓の外をぼんやりとみていた。

「冬妻さん?」

 ホタルの様子がやはりおかしい。ふだんから何を考えているのかわからないが、二時間程度、ミハルと一緒にいるのにまるで話しかけてこない。

「え? あ、ミハル。大丈夫です。心配ないです」

「乗り物酔いかしら。ごめんね。少し休もうか?」

 浅井は形だけは優しく声をかけてきた。

「いえ、大丈夫です」

 ホタルの声に感情の色はなかった。

「あの建物だから、もう少しよ」

 浅井は、舗装された山道を飛ばした。どうも途中で車を下りさせるつもりはないようだった。


 その建物は、近くで見ると遠近感が狂うほど巨大だった。五十階建ての高層ビルのような寺院、いや神殿。ミハルの想像を絶していた。こんな山奥に資材をどう運んだのかも想像できない。

 浅井は、門前の駐車場に車を停めると、ミハルとホタルを連れて正門らしきところに向かった。

 ゲートには、ふつうの警備員の格好をした者が何人か詰めていた。浅井が黙礼すると、警備員はなぜか敬礼で返した。これも、宗教なのだろうか。

 正門を抜けると、建物まではまだ百メートルはあるようだった。広場は、石畳で、さっきの警備員以外に人がいる気配はない。

「ようこそ、『月連』へ」

 浅井は、広場の中央にミハルとホタルを誘った。広場の中央には、浅井の名刺に描かれていた紋章が大きく彫り込まれていた。そこに三人が揃うと、その紋章が描かれた十メートル四方ほどが、かなりの速さで地下へと沈み込み始めた。

 ミハルは、思わずホタルの肩に手をかけた。ホタルの肩は強張っていた。

「このエレベーター、手すりもないの。ごめんね」

 浅井は、一応、ことばだけは取り繕った。

「でも、このエレベーターが一番早いのよ」

 地上五十階建ての建物のほかに、地下にも施設があるというのか。

「『王国』の中央研究所まではね」

 浅井は肩をすくめた。

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