第124話 ファイアーデビル
ミーアが右手の片手剣を振るいアースドラゴンの首を落とし、僕が竜の魔法で最後のワイバーンを細切れにした。僕とミーアはアイコンタクトを交わし勇者パーティーの様子をうかがう。既に日は落ち空には星が瞬いている。その中、重戦士レミジオが敵意を稼ぎ頑丈な盾を持ちファイアーデビルが他のメンバーを攻撃しないようにコントロールしている。スカウトのライアンが短剣でちょっかいを出しファイアーデビルの集中力を阻害している。魔術師アスセナがライトの魔法であかりを灯しメンバーの視界を確保し、時折ファイアーボールの魔法でやはりファイアーデビルの意識をコントロールする手助けをしている。勇者様の剣がスキを見てファイアーデビルの体を削る。アーセルの聖女の癒しが攻撃を引き受けているレミジオを治癒している。とても下位王種リトルデビルに腰が引けていたパーティーとは思えない成長ぶりだ。それでも
「ちょっとレミジオとアーセルの負担が大きすぎるか」
「そうね、今はアーセルの魔力が十分残っているから間に合っているけれど、レミジオの負傷が多すぎるわね」
「まだ単独パーティーで中位王種討伐は無理かな」
「でも、昔のあれを見てると信じられない成長ね」
「とりあえず現状では安心して見ていられるから、僕たちも軽く補給する時間はあるね」
僕たちは魔法の鞄から干し肉と水で軽く補給を済ませた。そして顔を見合わせ頷き勇者パーティーの援護に向かう。
ファイアーデビルがレミジオに向かって振り下ろす腕に僕が両手剣を打ち込み狙いをずらす。ミーアが両手に持つ片手剣を目に突き入れる。途端にファイアーデビルの敵意が僕とミーアに移る。
「レミジオ、少し下がれ。勇者様のカバーに専念。ファイアーデビルの敵意は僕とミーアが受け持つ。間違っても勇者様に攻撃を当てさせるな」
続けて僕はアーセルに小さな包みを投げる。
「魔力回復を補助する薬だ。普段ならいらないだろうけれど今日は飲んでおいた方が良い」
「え、なんでフェイ達が、これを持っているの」
「僕たちは魔法を使えるようになったばかりだからね、どのくらい使えるか分からないから念のために準備しておいたんだよ」
「じゃあフェイ達が……」
「うん、王種相手じゃ無理してまで魔法を使うこと無いから」
僕はファイアーデビルの打ち下ろしを躱しながらアーセルへの言葉を続ける。
「この状態だと、僕たちの魔法よりアーセルの治癒魔法の方が重要度が高いからね」
ミーアが背後から飛び上がり両の手の剣をファイアーデビルの肩口に突き立てる。また、ミーアが何か不思議そうな表情をしている。そのミーアにファイアーデビルの敵意が向いた。僕は近接しやや下から上向きに威力範囲を極限まで絞った竜の魔法を放つ。魔法そのもののダメージを与える効果は無さそうだけれど、それでもファイアーデビルの巨体が10メルド以上の高さまで浮く。飛行能力のない巨体はそのまま落下してくる。僕はその落下の力を利用しさらに下から自らに与えられた祝福の力を、鍛錬によって手に入れた技術をのせて両手剣を振り切る。向こうではミーアも同じ考えらしく下から振り切った。
ダメージこそ与えられていないはずだけれど僕たちの攻撃によってバランスを崩したファイアーデビルは転倒しその体を地に横たえた。しかもファイアーデビルの敵意は完全に僕とミーアに集中している。
「勇者様、今です。ファイアーデビルが転倒している間に全力で攻撃を……」
聖剣を振り上げファイアーデビルに切りつける勇者様。それなりにダメージは与えているけれど、さすがは中位王種。聖剣をもつ勇者の力をもってしても大きくは切り裂けない。
僕たちは立ち上がろうと地に手をつくファイアーデビルにそうはさせないと剣を振るう。少しでも長く勇者様が聖剣を強く振るえるように。
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幼馴染の初恋は月の女神の祝福の下に
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中高生の甘酸っぱい初恋を……
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