第106話 招待状

 僕とミーアは、部屋に戻ると封を開け手紙を確認した。

「差出人はヘンゲン子爵か」

「という事は差出人は勇者様なの」

首を傾げるミーアが可愛い。哀しみの陰も薄まり少しずつ以前の明るさを取り戻してきているのが嬉しい。

「勇者様、というよりヘンゲン子爵家としてみたいだ。僕とミーアへの招待状だよ」

「招待状。あ、ひょっとして」

ミーアの顔が明るくなる。

「うん、アーセルと勇者様の結婚の儀への招待状。行くかい」

「もちろんよ。あの時は、心配させちゃったし。幼馴染としてアーセルの結婚は祝福してあげたいもの」

「そうだね。あの時はある意味一番底だったからね」

「となれば、色々と準備しないと」

「ふふ、ミーアのドレスも新調しようね」

「フェイもカッコいい服作ろ。それに結婚のお祝いにプレゼントも考えないと」

「プレゼントなんだけど、せっかくドラゴンの素材があるからそこから作るのはどうかな」

「ええ、それってどうなの。結婚のお祝いだよ。もっと華やかなプレゼント考えようよ」

女性目線だとそういう事なのかなとも思うけれど。

「そういうものなのか」

「そういうものなの」

言い切られてしまったので、とりあえずそういう方向のものを考えよう。でもドラゴン素材のアイテムなんてそうそう無いから、特別感が出ると思うので、そっちは僕が勝手にやることにしよう。

「で、何にしようか。アーセルは僕たちと同じ平民の出だけど、勇者様は子爵家の嫡男だからそれなりのものじゃないと失礼にあたるだろうし、難しいな」

ミーアを見ると、何やら楽しそうにブツブツとつぶやいている。

「カットグラスも素敵よね。あ、でもそれだけだと貴族としては地味かしら。それなら何か宝石をあしらえば……、それとも2人の肖像画を……」

グラハム伯にお世話になりながらとは言え、僕たちは数年間も貴族として暮らしてきた。だからミーアもある程度はこういったプレゼントについて分かるようになっていたようで、色々と考えているようだ。それでも

「グラハム伯に少し聞いてみよう」

「あ、そうね。変なものを送ってアーセルに恥をかかせるようだといけないものね」


「結婚の儀に招待された際のプレゼントか」

「ええ、僕たちはその手の経験も知識も不十分です。どういったものが向いているのか……」

「まあ、貴族の結婚の儀でのプレゼントなど象徴的なものだったり権勢を誇るためのものだったりがほとんどだな。高額な絵画だとかむやみに宝石をちりばめたアクセサリーとかな。あとは強力な魔獣のはく製であったりとかで自らの権勢を見せつけることもある。それでも一部本当の親交のある貴族からならば、多少本人の好むであろうデザイン等を加味するくらいか。まあよほど悪趣味でなければ基本なんでもありだ」

「なんでもありですか」

「ま、まだ時間はあるのだろう。勇者と多少の交流もあるようだし、そのパートナーの聖女はお前たちの幼馴染なのだろう。2人の事を思ってじっくり悩め」

「よし、ミーア。2人で思いついたものをそれぞれ2つずつ贈るというのはどうだ」

「うん、そうしよう。あたしもアーセルのために色々考えたい」

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