第107話 特別な馬車
「フェイ、アーセルと勇者様の結婚記念のプレゼントは決めたの」
朝食後のお茶を楽しんでいるところにミーアが聞いてきた。
「色々考えているんだけどね。中々決まらなくて、いっそウィンドドラゴンの剥製を……」
「却下」
「せめて最後まで言わせてくれよ。それになんで、僕たちにしか出来ないプレゼントだし、特別感出ると思うんだけど」
「そこは確かだけど、フェイ少し感覚がズレてきてる。あんな巨大なものもらっても困るでしょ。あたしたちは魔法の鞄があるから邪魔にならないけど、普通はずっと置いておくのは無理よ」
「ちょっと言ってみただけなのに、そこまで言わなくても」
まあ、僕としても無理筋だとは思っていたからそれ以上突っ込む気はないのだけれど。でも、さて何を送ろうか。僕たちらしく、それでいて結婚のお祝いにふさわしい物。アーセルにはあれかな。でも勇者様には……。アーセルは赦せている。それでもやはり勇者様にはどうしても思うところはある。だけれどもあの裏切りがあったからこそ僕とミーアとの今があるとも言える。だからこそ今更アーセルを返せとも思わないし、過去の事で嫌がらせをするほどもう僕も子供ではない。アーセルは僕にとってはもうただの幼馴染なのだから。
「アーセルと勇者様の結婚の儀、あと20日だけど、プレゼントの準備は出来たかな」
ミーアに確認をすると。
「うん、あたしの方は準備できたよ」
「そっか、ミーアは結局何にしたんだ」
「えへへ、秘密」
僕とミーアは、別々にプレゼントを準備しているのだけれどミーアは、頑として内容を教えてくれない。僕に対してサプライズにしても仕方ないと思うのだけれど。
「フェイ、ミーア」
そんなところにグラハム伯が声を掛けてきた。
「どうしました」
「馬車が出来てきたぞ」
「おお、良いタイミングですね。ミーア見に行こう」
僕たちも帝国侯爵としての立場が出来てしまったため、公式、準公式、冠婚葬祭において自分達の足で行くわけにはいかない場合が多々あるからというグラハム伯の言葉に従い馬車を仕立てた。それが仕上がってきたというのだから、見に行くしかない。
「ほお」
グラハム伯にして溜息を吐かせる出来の流麗な箱型の4頭引きの馬車がそこにあった。濃い目のワインレッドの車体に僕とミーアを象徴する家紋としてクロスする2本の剣の上に2張りの弓が支え合う紋章を金で描かれている。実はこの馬車、色々と頭がおかしいんじゃないかと言われかねない作りをしてある。まず馬車自体ほとんどがウィンドドラゴンの素材から出来ている。なので対魔法対物理とも並みの魔術師や戦士ではどうにもできないほど堅牢だ。車軸周りには路面からの衝撃を吸収する魔法道具が使われていて道中の快適さは王家の馬車さえ凌ぐ。魔法の鞄と同じ原理を利用した物入れには家1軒丸々入るような容量があるし、当然時間遅延の魔法を付与されている。出入りには魔法のカギが仕込んであり僕かミーアが意識しないと開けることも出来ない。
「4人乗りです。ご一緒に乗ってみますか」
グラハム伯に水を向けると
「言葉に甘えて試させてもらおう」
屋敷の広い庭をぐるりと数周乗って周る。
「とんでもなく乗り心地の良い馬車に仕上がっているな」
グラハム伯の言葉に僕たちも同意見だった。
「まるで雲の上のベッドにいるようね」
ミーアも気に入ってくれたようだ。
「グラハム伯も同じものを作られますか。乗り心地もですが、防御力は辺境伯のものとして現状これ以上は無いと思いますよ。」
「フェイ、グラハム伯にはお世話になっているのだし、プレゼントしてもいいんじゃないの」
「ふむ、うん。そうしよう。今から発注すればアーセルと勇者様の結婚の儀が終わるころには出来上がるか。グラハム伯、家紋は勝手に入れるのはまずいのですよね確か」
「そうだな、家紋だけは受け取ってから贈られた者が入れるものだ。そうでないと勝手に入れたことになり帝国法に抵触するからな」
しばらく新しい馬車の乗り心地や装備を試した。
「これならヘンゲン子爵領への旅も余裕だな」
「そうね、あたし、普通の馬車だと遅いのに揺れるし、お尻は痛くなるし好きじゃないけど、この馬車なら旅も楽しめそう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます