第81話 侯爵

 あれから1年。僕とミーアは本名を隠すことをやめフェイウェルとミーアの名で貴族派17貴族を殲滅した。そして今、最後18番目。

「や、やめろ。貴様何をしようとしているのかわかっているのか。侯爵家の息子を手にかけようとしているのだぞ」

「あ、あああ、やめてください。後生ですマリアーノだけは」

「貴様たちが先に仕掛けたことだ。理由は夫が知っている。そいつに聞くがいい」

僕はインセグノ侯爵夫妻の前でその息子の首を切り飛ばした。僕は狂っている。分かっているこんなことに意味なんかない。それでも止まることが出来ない。

「あ、あなた何故です。なぜマリアーノがこんな無情に殺されないといけないのですか」

「教えてあげたらどうだ。なぜどんな事をしたから幼い息子が目の前で殺される事になったのかをな」

「そ、それは……」

「黙るの。そうよね。言えるわけないわよね。奥さんに自分の子が殺されて当然なことをしたなんて言えるわけないわね。でもあなたの子はまだマシよ。殺される理由があるのだもの」

ミーアの声も冷たい。

「あなた、何故なの。教えてください。なぜ幼いマリアーノが無慈悲に殺されないといけないの。どんな理由があって」

そこまで叫んで、ふと気づいたらしい。

「まさか、あなた」

夫人がインセグノ侯爵の胸にすがりついた。

「帝国の英雄の子を、たしかまだ2歳くらいだと聞いている幼い子をあなた」

侯爵は妻の目を見ず顔をそらした。

「殺したの。そんな特に敵対していたわけでもない英雄の幼子を。ねえ、あなた」

夫に縋り付き間違いであってほしいと首を振る夫人。

「ねえ、お願い。違うと言って。あなたは幼子の殺害に無関係だと言って」

そこまで追及されたインセグノ侯爵は

「す、すまん」

「十分ね」

膝をつき床に頽れた夫人をミーアが縦に切り裂いた。

その妻と息子を目の前で斬殺されたバッティグタ・インセグノ侯爵は膝をつき声にならない嘆きの声を上げていた。僕たちは、その姿を冷ややかな目で眺めながら

「貴様たちが、先に仕掛けたことだ。貴様には悲しむ資格さえない」

僕の右手の剣が侯爵を切り裂き上半身と下半身が別々に床に倒れ落ちた。

「これで終わりだね」

「うん、終わりね」

なんの達成感も無い。心を満たすものもない。ただ虚しさだけがそこにあった。

「ラーハルトのところに帰ろう」


 復讐を終え。隠棲しようとさえ思った僕たちは、最後の務めとして今皇帝陛下に謁見中だ。

「面を上げよ」

2年前と同じく皇帝クラエス・ロッシ・フクトヴルム7世の前に僕は跪いている。

2年前と違うのは謁見の間に貴族派の姿がなく、皇室派の貴族のみが並んでいるところだろう。

「状況は聞いておる。元老院貴族からの奇襲をきっかけとした防衛・反撃の戦。勝利にて終わらせたそうだな」

「はい、皇帝陛下の恩寵のもとに」

「慣習により、その貴族の領地はファイ、いやフェイウェルだったなフェイウェル・グリフィン男爵領となっておる。このまま治めることはできるか」

「いえ、わたくしの手腕では領地を治めることは無理と考えます。故にそれらすべて皇帝陛下に献上させていただきたいと存じます」

「領地を献上か。となれば、何か褒賞を与えねばなるまいな。何か希望はあるか」

「いえ、希望など恐れ多く」

「ふむ、かと言って何も渡さないというわけにもいかん。誰か意見はないか」

そこで皇帝陛下の後ろに控えていた老紳士が口を開いた。

「恐れながら、発言をお許しいただけますでしょうか」

「クーリッシか。発言を許す」

「フェイウェル・グリフィン男爵、およびミーア・グリフィン男爵夫人は皇室に大規模な領地を献上いたしました。褒賞として陞爵を検討されてはいかがでしょうか」

「陞爵か。しかしこれだけ大量の領地となると1段階とはいかんと思うが。どの程度が適切と思うか」

「は、最高位の公爵はさすがに度を越していると考えますが1段階や2段階ではさすがに不足かと、となれば」

「侯爵位か」

「は、それがよろしいかと」

「ふむ、よい。フェイウェルグリフィン、この時をもって侯爵に叙す」

「謹んでお受けいたします」

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