第80話 テロと宣戦布告

 ロベル伯領軍を殲滅してから60日ほど。僕とミーアは既にレイ子爵、ロベル伯爵を含め貴族派の5貴族を殲滅してきた。ここまでしたのにも関わらず僕たちに対する手配書が出回っていない。普通ならばレイ子爵を潰したところで国からの手配書が出回っていても良いはずなのに、僕たちの顔を知られていない地域のギルドに情報収集に入った時に偶に見かける貴族派独自のものが依頼として出されているくらいだ。しかもギルドでのその扱いは酷く、誰も見向きもしていなかった。僕は少し考えてミーアに提案してみることにした。

「ミーア。一度グラハム伯を訪ねてみようと思う」

「え、突然ね。何かあったの」

「これだけの事をしてきたのに僕たちに対する国からの手配書が出回っていないのが不思議だと思わないか」

「言われてみれば、そうね」

僕たちは久しぶりに辺境伯領に戻ることにした。


 貴族派の領地は南部に集まっており、辺境伯領は帝国の最北、僕たちの足でも辺境伯領領都エイリヤまで30日近く掛かった。エイリヤの様子は旅立つ前と変わらず活気に満ちていた。そしてこの街では僕たちは顔を隠してもほぼ無駄だという事も分かっている。なのでフード付きコートを着て顔を隠すこともしていない。

「あ、ファイ様、ミュー様。おかえりなさい。ご無事でなによりです」

「お、ザ・フォートレスとジ・アルマダ帰ってきてたのか」

「ファイさーん」

「ミューさーん」

僕たちの事を以前と同じように受け入れてくれる街の人々に少々驚きを感じながらグラハム伯の屋敷に向かう。

 屋敷は修復途中で襲撃の爪痕が拭い去られていないものの、グラハム伯の家臣数人が職人と打ち合わせをしていた。


「こんにちは」

僕が声を掛けると

「あ、グリフィン男爵ご夫妻。おかえりなさい。ご無事で何よりです。ご武勇はこのエイリヤまで轟いていますよ」

「武勇ですか」

「ええ、たった2人でいくつもの貴族派領軍を撃破されたと」

僕はミーアと顔を見合わせ疑問を口にした。

「僕たちは、反逆者か何かにされていると思っていたのですが」

「え、そんなわけないじゃないですか」

そんな話をしていると

「ファイ、ミュー戻ったのか」

グラハム伯が話に割り込んできた。

「街でお前達を見たと言う話を聞いてな、来るならこっちだろうと急いできたんだ」

「こんにちは、グラハム伯。ご無沙汰しています」

「うんうん、怪我など無さそうで何よりだ」

「僕たちの怪我なんでどうでもいいんです。ラーハルトはそんな事さえ気にすることができなくなって……」

「すまん、配慮が足らなかった」

「いえ、グラハム伯が僕たちを思ってくれていることは分かってますから」

「それしか俺には出来ないからな。なによりお前たちに釘を刺されてしまっては」

グラハム伯が少し悔しそうだ。

「場所をかえるか」

場所を移し、香り高いお茶をいただきながら僕たちはグラハム伯と話をしている。

「それはそうとグラハム伯に聞きたいことがあるんですが」

「ふむ、俺で分かることなら答えるに吝かでないぞ」

「僕たち、既に5つの貴族派の有力貴族をつぶしてきました。それなのに国からはなんのお咎めも無い様子なんですが、なぜだか知っていますか」

僕の質問に、そんなことも分からないのかとで言いたそうな表情でグラハム伯は答えてくれた。

「あれな、グリフィン男爵家に対して貴族派がテロをしかけて、それに対してグリフィン男爵が宣戦布告をして潰していると見られている。つまりお前達は売られた喧嘩を買ってるだけ。というかお前達は攻める前に必ず宣戦布告をして攻めているだろう。だから国内とはいえ正式に戦争扱い。しかも貴族派が悪役の戦争。なので帝国としてはお前達に責めを負わせることはない」

「はあ。でも国内での影響力はやつらの方が上でしょう。僕たちを悪役にするていどの事は簡単にできるのではないですか」

「ま、そのあたりは証拠と当事者以外の有力貴族の口添えがあったからな」

僕が分からない顔をしていると

「あの時渡したオーブ。あれが記録の魔道具なんだよ。あれに向こうのやつらの自白が全部記録されていて、それを持って俺が皇帝陛下に具申した。皇帝陛下公認の喧嘩だ。存分にやれ。ま、皇帝陛下としても最近の貴族派の腐りっぷりには辟易としていたらしくてな、やつらを入れ替えたいという思惑と一致した面もある」

そういうとグラハム伯は悪い顔で薄く笑った。そしてついでのようにサラリと爆弾を落としていった。

「落とした貴族派の領地は暫定でグリフィン男爵領になっているからな」

言われた内容が理解できない。いや言葉の意味はわかる。でもなぜ……

「なに、形だけだ。とりあえずは俺が領主代行ということで代官を選任して送ってある。お前達が心配することは無い。事が終わった後で皇帝陛下に献上する形にするといい」

そして続けた。

「それで、お前は侯爵だ。軍事・政治両面において俺と並ぶツートップになる。2度とあんなことはさせない」

グラハム伯は手にしていたカップを握りつぶし、破片と飲みかけのお茶が床に落ちた。

「こんなことをしてもラーハルトは帰ってこない。しかしそれでも……」

帝国最大の重鎮であるグラハム伯が僕たちと悲しみを共有してくれている。

「ありがとうございます」

僕たちはそれ以外に言うことが出来なかった。

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