第82話 伏龍

 僕とミーアは相変わらずグラハム伯の屋敷にお世話なっている。しかし、心が晴れない。復讐はこれ以上ない状態で終わった。それでも心は空っぽなまま。ミーアもずっとぼうっとしている。時々2人でラーハルトの部屋に行っては肩を寄せ合い涙を流す。何もやる気にならない。日がな一日部屋で膝を抱えてボーっとしている。

 そんなところにグラハム伯がやってきた。

「フェイ、ミーア。いるか」

「あ、グラハム伯。こんにちは」

チラリと部屋の様子を見回したけれど、それについては何も言わず。

「最近忙しくて中々こっちに来られなくてな。何か不自由はないか」

「ええ、皆さん良くしてくれています。お屋敷の修復も順調ですしね。グラハム伯はお忙しいようですが何かお変わりありませんか」

「俺の方は相変わらず南部の皇帝直轄領地の代官の派遣についての相談と騎士団の増強の話だな」

南部のということは僕たちが殲滅した新しい直轄領の事だろう。

「すみません、騎士団まで殲滅する必要はなかったですよね」

「構わん。というかあそこの騎士団は残っていても逆に取り扱いに困っただろうからむしろ良かったと思っているぞ」

「それでも少しは」

「ああ、良い良い、気にするな。俺もあれに参加したかったとか考えてしまうから」

「はあ、わかりました。ありがとうございます」

「それはそうと、お前達が南部でなんと言われているか知っているか」

「南部でですか。いえ聞いてませんけど」

「フェイはリベンジ・ジェノサイダー、ミーアがルナティック・リベンジャーだそうだ」

僕とミーアは薄く笑って。

「僕たちらしいふたつ名ですね」

「そして、今日のメインはこっちなんだが、実は聖国で動きがあった」

「聖国でですか」

「お、少しは興味あるか」

「まあ、追われたとは言え故国ではありますから。で、どんな動きですか」

「お前たちに掛けられていた結界破壊の容疑が訂正された」

「は、訂正ですか。どう訂正されたんですか」

「くくく、笑うなよ。故意による結界破壊の罪は誤解によるもので、実際には既に魔獣により破壊されていたものでお前達に罪は無いそうだ」

「また、今更ですね。なぜ5年以上前の話を今更ほじくりかえしてきたんでしょう」

「お前達は2人で南部の貴族派を殲滅しただろう」

「ええ、何も生みませんでしたが」

「ここからは想像なんだがな、今になってお前達という戦力と敵対する意味を悟ったんだろうな。お前達が本気になったら国が滅ぼされるとな」

「そんな気持ちは無いんですけどね」

「そこはお前達がどう思っているかではなく、聖国のトップがどう感じるかだからな」

「そんなものですか」

「そんなものさ。それでだな、俺の元に聖国から書状が届いた」

「グラハム伯にですか」

「そう、まあ俺がお前達の後ろ盾になっていること、お前達がここにいる事はわかっているだろうからな」

「で、その書状がどうかしたんですか」

「『不幸な誤解により罪に問われたフェイウェルおよびミーアの罪を不問とし、フェイウェル・ハモンド聖元帥およびミーア・ハモンド大聖騎士の名を回復する。聖国大聖堂に参内されたし』だそうだ」

「ああ、それって『赦してやるから、本拠地に来い』って意味ですかね」

「まあ、ありていに言えばそういう事だな。状況からしてよくもまあ上から言えたものだとは思うがな。で、どうする」

グラハム伯は、心配そうな表情で僕達をみながら問いかけてきた。

「正直なところ、故郷ですからね。戻りたい気持ちはあります。ですが……」

躊躇いを見せる僕達に

「何をされるか信用がならん、というところか」

僕もミーアも聖国の上層部には何一つ信用できる要素がない。それでもその中で聖騎士団だけは最低限の信頼を置いているが、その聖騎士団でさえ国から命じられれば敵に回らざるを得ないだろう。

「ならば、帝国侯爵たるフェイウェル卿や、その妻ミーアを書状1つで呼び出すなど不敬である。として断っておこう」

「良いのですか」

「良いも何も、事実だ。お前達は自己評価が低いが、帝国においてお前達の立場は既に盤石と言って良い。ただの2人で万の軍を降した戦力として、侯爵という爵位を持つ上級貴族として、そして気づいておらんだろうが英雄としての民衆からの人気はある意味皇帝陛下さえ上回りかねない状態だ。ま、向こうは焦るだろうがな」

「なぜ召喚を断るだけで向こうが焦るんですか」

「フェイ、本当にお前、分かってないのか」

僕の表情が本当におかしかったのだろう。グラハム伯は、笑いながら答えを教えてくれた。

「聖国のやつらは結局お前達が怖いのさ。冤罪を着せ追いやりせせら笑っていたら、ウサギを追いやったつもりだったのが実はその気になれば国さえ亡ぼす伏龍だったと気付いたのだからな」

そして聖国からの召還を拒否しグラハム伯の屋敷で過ごしている僕達のところに思いもかけない来訪者が現れた。

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