第44話 ある依頼


 王種討伐についての連絡があるまで何もしないのももったいないということで、僕とミーアは今ギルドに来ている。今の僕たちのギルドランクは2級。素材買取や色々なサービスを使うのに便利なためギルドに登録だけして依頼を受けるとかしてなかったため、ほんの少し前まで10級だったのだけれど、スタンピードの際の功績としてランクアップされてしまった。

 そして僕たちは依頼の貼られた掲示板の前で立ち尽くしている。

「受けられる依頼が無いね」

自分のランクの上下1ランクの依頼だけが受注可能というルールがあり、ギルドランク2級の僕たちは1級から3級の依頼しか受けられない。こんな高ランクの依頼はそう多くないらしく、今は無い。あとは特例として誰も受けずに30日以上残っているものであれば下のランクの依頼も受けられるけれど、現在そういった残り物もない。

「どうしようか」

僕とミーアは顔を見合わせるものの何も思い浮かばない。もちろん別に現状お金に困っているわけではないので、どうしても依頼を受けないといけないというわけではないけれども何もしないというのも落ち着かない。そこで僕たちは受付に向かい、丁度そこにレーアさんがいたのを良いことに声を掛けた。

「レーアさん、おはようございます」

「あ、ハモンドご夫妻。おはようございます。今日はどのようなご用件ですか」

「依頼掲示板見たんですけどね。僕たちが受けられるような依頼がなくて。レーアさんなら何かないかなと思いまして」

「そうですねえ、お2人は2級冒険者でしたよね。それに王種討伐関係の連絡もあるから長期間のものはだめですし。少し調べてみますね。」

そう言うと、レーアさんは何か書類をペラペラとめくって調べ始めた。

 しばらく書類を確認していたレーアさんが1枚の書類を示した。

「お2人は弓と剣を使われるんですよね」

「え、ええメインは弓ですが、剣もまあそれなりには」

「では、これなんかどうでしょうか。聖騎士団団長の依頼です」

「どんな内容ですか」

僕が問うと

「ご子息の剣の鍛錬のお相手だそうです」

「剣の鍛錬って。僕たちの剣は騎士団のような綺麗な剣じゃないですよ」

「むしろそういった実戦型の剣で相手をして欲しいそうです。そもそも聖騎士団団長ともなればご子息には正規の指南役がついているはずですので、剣の型とかの指導を求められることは無いかと」

「お返事は詳しいお話をお聞きしてからでよろしいですか」

「当然ですね、ではこちらへ」

僕たちは、奥の打ち合わせ室へと案内された。

「こちらの部屋は、上位冒険者の方と依頼について打ち合わせをするための部屋となります。そういった依頼は機密事項もおおいため盗聴防止の魔道具が設置されています。この部屋での会話は外に漏れませんので安心して打ち合わせができます」

「わざわざそんな部屋を使う、いえ使わざるを得ない状況ですか」

僕の問いにレーアさんは敢えて答えず

「実は、これは依頼の形をとっていますが、聖騎士団からお二人への情報提供のためのセッティングとのことです」

これが答なのだろう。

「聖騎士団からの情報提供ですか」

「具体的な内容は知らされておりませんが、王種討伐絡みの件のようです」

「キナ臭いですね。でも、聖騎士団は信頼できると思っています。お世話になろうと思います。いいねミーア」

「うん、あたしも聖騎士団との話なら行きたい」

「では、このメモの場所に行ってハモンド夫妻の名前で依頼を受けに来たと言ってください」


 その場所は聖都の高級住宅街とでもいうべき場所だった。純白の豪邸、ひたすら広い敷地。その屋敷への出入りを監視する門番。その彼に近づき僕は声を掛けた。

「ハモンド聖元帥およびハモンド大聖騎士だ。依頼を受けに来た。聖騎士団団長フェリーペ ・チャバリ殿に取り次いでいただきたい」

「は、少々お待ちください」

言うと門番は奥に引っ込んでいった。僕は溜息をひとつ。そんな僕を見てミーアはクスリと笑い

「フェイのはったりも堂に入ってきたわね」

「こんなの僕のやり方じゃないんだけどね」

つい僕は、ぼやいてしまう。

大して待たされることなく門番と執事らしき壮年の男性が現れた。

「ハモンドご夫妻ですな。私、当家執事長のセルブロ・カナベルと申します。お待ちしておりました。ご案内致します」

僕とミーアはセルブロさんの案内で応接室に腰を落ち着けた。目の前のテーブルには薫り高いお茶が置かれた。

「主人は、間もなく参ります。それまでこちらでおくつろぎください」

そう言うとセルブロさんは下がっていった。

フェリーペさんが来るまでの間、僕たちは提供されたお茶を楽しみさりげなく配置された家具に目を向け、リラックスして待つ。

 ちょうどお茶を飲み終わる頃に依頼人ということになっている聖騎士団団長フェリーペ ・チャバリさんがやってきた。

「こんにちはハモンド卿、ハモンド婦人。よくいらしてくださいました」

「いえいえ、聖騎士団にはお世話になりましたからね。お声を掛けられればできる限りの事はさせていただきます」

こういう社交辞令面倒だと思いながらもこれは様式美というものらしいので愛想笑いと共に熟し、言葉を続ける。

「それでご子息の剣術の鍛錬のお相手をご希望とのことですが」

「うむ、名を馳せたハモンド夫妻に相手をしていただいたとなれば息子も励みになると思いましてな」

「そう言っていただけると光栄です」

「ただ、報酬がですな。ハモンド夫妻はすでに十分な金額の報酬を受け取っておられると聞きます。何をもって報いたら良いものかと。何かご希望はありますかな」

”こういう事か”僕はやはりこういうのには慣れないな。そう思いながら

「そうですね。では最近の上流階級の方々の話題に上っているお話を教えていただけますでしょうか。もちろん国益に反しない範囲でかまいませんので」

「おお、そんなもので良いのですか。では息子との鍛錬の後にでもお話させていただきましょう」

「ありがとうございます。よろしくお願いします。」

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