第45話 竜を手名付けるために

「では、早速ですが、当家の鍛錬場にご案内いたします。セルブロ、パトリックを呼んできてくれ」

鍛錬場というのはおよそ100メルド四方の場所だった。地面は土がむき出しだが、十分に均され特に障害にになるものは無さそうだ。鍛錬場を確認している僕とミーアを呼ぶ声がした。

「ハモンド聖元帥殿、ハモンド大聖騎士殿、こちらが息子のパトリックです。騎士の祝福持ちで、18歳ですが、騎士としての鍛錬を重ねており、すでに準騎士程度の実力はあります。しかし、剣がきれいすぎるのが気になっておりましてな。スタンピードという、ある意味究極の実戦を潜り抜けられたハモンド殿の剣を見せてやって欲しいのです。パトリック、ハモンド夫妻だ。ご挨拶をしなさい」

「父上しょせんは狩人ではありませんか。騎士たる我が教わるものなどないでしょう」

僕が感じたのは強烈なプライドと十分な根拠のない自信。なるほど一度挫折した方が伸びそうだ。となれば……

「ミーア、鼻っ柱をたたき折ってきてくれるかな」

「ん」

木短剣を両手にミーアが鍛錬場に出ると、

「な、我の相手を女がするというのか。バカにするのもほどがある」

「女に負けるのが怖いのですか」

「なんだと、我が負けるわけがなかろう」

「あなたの中の騎士は口で戦うのですか」

「なんだと」

「違うというのならば証明してみせてください」

「ふん、貴様の妻がケガをしたからと文句を言っても聞かんからな」

「くふふ上位魔獣を一人で倒すミーアにあなたの剣が届きますかね」

鍛錬場の中央で向かい合う二人にフェリーペさんが合図をだす。

「始め」

合図とともにミーアが風を巻いて迫りあっという間にパトリックの首筋に木短剣を突き付けていた。

「な、今のは油断していただけだ」

「ふ、あなたは戦場で敵に対してもそのように主張するのですか」

言葉に詰まるパトリックに

「ま、良いでしょう。もう一度やってみましょう。ミーアもう1度だ」

「多分何度やっても一緒だと思うなあ」

ミーアのボソッとつぶやいた言葉が聞こえたのか

「ふざけるな、次はギタギタにしてやる」

再度向かい合い、結果はミーアが後ろから木短剣をパトリックの背に突き付けていた。

「後ろからなど卑怯だ。騎士はそのような戦いをしない」

ダメか。

「ミーア、代わろう」

ミーアに代わり、標準的な木剣を持ち今度は僕が向かい合う。

「始め」

フェリーペさんの声に僕はゆっくりと前に出る。

「おりゃぁ」

気合の声と共に打ち込んできたパトリックの剣を僕は下からすくい上げるようにして弾き飛ばす。10メルドほど先に落ちる木剣と振り切った姿勢のままに固まるパトリック。

「拾いなさい」

そして次には、先に打ち込んできたパトリックの剣を交わしながら頭の上に寸止めする。次には木剣同士をぶつけそのまま押し切って肩口に寸止めをする。

何度も何度も、パトリックの剣は僕には全く届かない。そして僕の剣は正面からパトリックをとらえ続ける。

そして

「ここまでにしましょうか」

僕がフェリーペさんに声を掛ける。

「そうですね。パトリック、これこそが実戦の剣だ。覚えておきなさい。では、おふたりはこちらへ」

応接室に戻った僕たちはティーカップを手に話をしている。

「最近の上流階級の方々の話題でしたな」

「ええ、是非に」

「最近多いのは竜を飼いならす話ですな」

「ほう、竜をですか」

「硬軟入り混じった手法で上位竜を手なずけようとしてうまくいかず、たまたまそこに下位竜が現れ、そちらを手なずけ、上位竜は討伐しようとする、そんなお話ですな。そんな話を手を変え品を変え話すのが最近の流行りのようです」

「なるほど、上位竜がむりなら下位竜。そして上位竜は討伐ですか。面白いお話ありがとうございます」

やっぱり僕とミーアは……

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