これで最強に近づいたのか……?

 ほどなくして出口が見えてきた。


 ――トラット草原。

 薄暗い洞窟とは打って変わり、美しい草木の並ぶ穏やかな場所だ。魔物もほとんど出現しないので、ひとまずこれで一安心というところだろう。


「う、うーん。おかしい」

 ……のはずなのだが、Sランク冒険者のアルルはなにかが納得いかないご様子。

「一度も魔物に遭遇しなかった……。ワルード洞窟は魔物がしつこいはずなのに……」


 そして真剣きわまる表情で僕を振り返る。


「これも、あの骸骨剣士となにか関係あるのかしら? どう考えても変じゃない。やっぱり、裏でなにかが……」


「はは……、そうじゃないよ。僕の《未来予知》で、魔物のいない通路を先回りしただけさ」


「へ……」


 そういえばアルルには言ってなかったな。


 未来が予知できる対象は、なにも人物だけに留まらない。街や村、建造物など……あらゆる物が対象となりうる。自分の動きだけは視えないが。


 だから魔物のいる場所を避けることは、僕にとっては容易。僕は戦闘ができないから、これくらいできないとすぐに殺されてしまう。


「あ、あんた、やっぱりすごいわねぇ……」


「いやいや、そうでもないってば」


 後頭部をさすりながら謙遜する僕。

 美少女に褒められるのは悪い気がしなかったが、さりとて慢心はできない。前言通り、現状の僕には|これ(・・)しかできないから。


 さて、僕とアルルはとりあえず近隣の村まで歩くことになった。そこで馬車を借り、ギルドまで戻るというのが方針だ。


 村に近づくにつれ、ちらほらと人の姿も確認できた。ここまで来ると魔物も出ない。外で遊ぶ子どもたちや行商人など、ちょっとした人数とすれ違う。


 その度に、僕たちは怪奇な視線に晒された。アルルの美しさに見取れた後、その隣にいる僕を見て驚いている様子だ。 


 その気持ちはわからなくもない。片やエリート冒険者、片やどこの馬とも知れぬみずぼらしい男。どこからどう見てもデコボココンビである。


 そんななかで、アルルがとんでもない提案をしてきた。


「そうだクラージ。リンク繋がない?」


「えっ」


「今後必要になるじゃない。やっといて損はないでしょ」


 さも当然のように宣(のたま)うアルル。


 リンク。

 それは我が国――ミュラール帝国において、最近開発された魔法の一種である。言い換えれば、《通信魔法》といったところか。


 詳しい説明は省略するが、遠隔魔法の込められた《カード》を使用することで、任意の相手と遠隔で連絡を取り合えるものである。


 たしかにこれなら、戦闘時にも役に立つ。戦場で指示を出さずとも、魔法で通信できるならそれに越したことはない。実際にも、あの骸骨剣士には僕のことがバレかけたわけだし。


 だけど……


「アルルさん。ほ、本気なの?」

 僕は驚嘆を禁じえない。

「そ、そんなのまるで恋人みたいな……」


「なによ。嫌なの?」


「いや。そういうわけじゃ……」


 通信カード。

 多くは仕事用に使われるが、反面、プライベート用に使用されることも多くある。


 つまりは恋人との通話だ。


 だから思春期たる若者たちが、想い人との連絡手段として、通信カードを使うことが多いのだ。


 僕たちはたしかにギルドに従事している身。

 けど、前述の通りデコボココンビである。この二人がリンクを繋いでいるって……どう考えてもおかしい。


「うう……でも仕方ないか」


 迷っててもしょうがない。


 骸骨剣士のときはトラップを仕掛ける余裕があった。

 けれど、今後もそれが通じるかはわからない。こちらの指示が筒抜けになってしまえば、連携も取れなくなる。


「はい、決まりね♪ カード出して」


「はぁ……」


 互いにカードを差し出し、同じタイミングで「リンク・コネクト」と唱える。


 あとはカードが淡い新緑の輝きを発せば、手続き終了だ。こんなんでセキュリティ的に大丈夫なのかと問いたくなるが、開発元いわく問題ないらしい。公表はされていないが、様々な対策がなされているのだとか。 


「…………!」

「えええっ……!!」


 心なしか、周囲の人たちが驚きの声をあげているように感じられた。


 そりゃそうだ。

 僕だってびっくりである。


 しかも。

 この通信カードは開発されたばかりで、まだ使い勝手の悪いところがある。


 例えば――


「よし、これでオッケーね!」


 アルルが黄色い声ではしゃいだ。


 現在、僕とアルルの周囲を、薄い赤色の光が包み込んでいる。

 それを見たまわりの人々が、一層のどよめきを上げた。


「はぁ……」


 ため息をつく僕。


 ――やっぱりこうなったか。


 これはリンクしている際に起きる現象だ。

 通信を取り合っている間は、両者ともに赤い輝きが発生するのである。


 だから年頃の男女がリンクして恋人アピールする……という、僕には理解しがたいリア充の世界も存在する。


『クラージ。聞こえる?』


 今度は僕の頭にアルルの声が届いてきた。通信カードを使って念話してきているのだ。


『う、うん。聞こえるけど……』


『これでいつでも連絡取れるわね。うんうん』


『アルル……』


 戦闘のためだけじゃなかったんかい。

 という突っ込みはとりあえず飲み込んでおいた。


『街に戻ったら、パーティーのみんなともリンクしましょう。信頼できる人になら今日のこと話してもいいでしょ?』


『う、うん。まあ……』


 さすがに僕とアルルだけで敵の目論見を阻止するのは無理がある。

 事件を公にすることはできないが、信用できる戦力はたしかに欲しい。


『というわけで、街に戻りましょ。レッツゴー!』


『元気だなぁ、ほんと……』


 軽快に歩くアルルを、僕は苦笑いしながらついていく。

 

 

 

 

 

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