ギルド受付係の無双譚

ありがとう……アルルさん」


 僕はひとまず安堵する。

 彼女と結託できれば、まったく勝てない戦いではない。


 いや。勝てるはずだ。


 いま僕の視界には、骸骨剣士が倒れる未来が見えている。


 だが――これは僕の誘導がすべてうまくいった場合の結末。

 一瞬の判断ミスが命取りとなる。


 うまく連携が取れず、アルルが死んでしまう《分岐点》も見えている。

 だが、うまく彼女を導きさえすれば――!


「アルルさん。このまま突進して。二秒後に右ステップして、攻撃を」


「……うん。わかったわ」


 アルルは素直に頷いてくれた。

 そして指示通り、神速のごとき突進を敢行をする。


 すさまじいスピードだ。

 彼女が駆けただけで、地面の小石が舞う。突風が舞い、僕の髪がたなびく。


 そして、二秒後。


 予想通り、骸骨剣士は大剣を振り下ろす。こちらもすさまじいスピードだ。アルルが普通に戦った場合、そのスピードを視認することができず、もろに直撃していたに違いない。


 だが、いま違う。


「はっ!!」


 僕の指示通り、アルルは右ステップを行う。間一髪、彼女の元いた位置を大剣が抉った。


「なにっ……!?」


 思いがけず攻撃を避けられた骸骨剣士が、素っ頓狂な声をあげる。


 そりゃそうだろう。

 さっきまで一方的に蹂躙(じゅうりん)していたはずの相手が、急に変わったのだから。


 そして――

 いかに相手が強敵であろうとも、攻撃後の隙はいかんともしがたい。


「やあっ!」 


 アルルは勇敢な雄叫びを響かせながら、骸骨剣士の懐に飛び込む。

 剣の柄を握り、抜く。

 一閃。

 彼女が剣を振っただけで、一筋の閃光が瞬く。

 骸骨剣士の胸部を、アルルの剣先がぴたり捉える。


 そして二度目の剣撃を見舞おうとした、その瞬間。


「アルルさん、深入りは禁物です! 後ろに避けて!」


「……っ。わかったわ!」


 咄嗟に避けた彼女のすぐそばを、大槍が通過していった。


 あれは闇魔法の《シャドウボース》。

 予備動作もなく発動させるとは驚きだが、僕にはその未来が視えていた。


「ぬ……!?」


 骸骨剣士はまたしても驚愕の声をあげる。

 いまの攻撃は自信があったみたいだ。たしかに|普通(・・)なら脅威的な技である。


「馬鹿な……。おかしい、なぜっ……!」


 動揺しまくる骸骨剣士。

 いまが好機だ!


「アルルさん! 攻撃を!」


「了解!」


 アルルは快活な返事とともに、反撃に転じる。今度は横一文字の水平斬り。


 舞い散る閃光。

 響きわたる骸骨剣士の悲鳴。


 その際、ちらりとアルルがこちらを見る。


 僕はしっかりと頷いた。

 いまは攻めるべきタイミングだ。相手の出方を窺う必要はない。


 アルルはぐいっと親指を突き出し、「OKサイン」をすると、再び敵へ突っ込んでいく。


 そこから繰り出される剣舞(けんぶ)に、僕はしばし見取れた。


 まるで――光輝く龍が舞っているような。

 アルルが動くたび、金色の軌跡が宙を舞い、さながら龍の絵を描いている。


《閃光龍》のアルル。


 その二つ名は伊達じゃなかった。

 なんと美しい攻撃だろう。


 しかも、僕と彼女の呼吸はぴたり合っていた。こちらが余計な指示を出さずとも、的確なタイミングで振り返ってくれる。


 そう。

 まるで、長らく一緒に戦ってきたパーティーのような。


「ヌオオオオオオオッ!!」


 さっきまで余裕ぶっていた骸骨剣士に、明らかな焦りが生じた。両腕を天に突き出すや、野太い叫声を発する。青白かった眼球が紅(あか)に変色する。


「許さんぞぉぉぉぉぉおおお!」


「く……」


 その威圧には、さしものアルルとて恐怖を禁じえないようだ。片腕をおさえ、じりじりと後退する。


「これで勝てると思うなよ! わかっているぞ人間ども!」

 すると骸骨剣士は僕を指さし、なおも叫びだす。

「そこの人間! まずは貴様から叩き潰す!!」


「くっ……!」


 アルルが不安そうにこちらを振り向く。


 さすがは魔王の僕(しもべ)。

 僕の特殊能力に早くも気づいたようだ。


 だが――もう遅い。


「残念ながら……君は負ける。わかってるんだ」


「ほざけ人間がぁぁぁあ!」


 骸骨剣士が疾駆した――その瞬間。


 奴の踏んだ地面から、僕の仕掛けたトラップが起動。幾筋もの電流が発生し、骸骨剣士を包み込む。


「ぐおおおおおおおっ!」


 低い悲鳴をあげる骸骨剣士。

 むろん、こんなもので奴は倒せない。これはあくまできっかけだ。


「いまだアルルさん! 最高の技でトドメを!!」

 

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