鏡とお妃

お妃「鏡よ鏡よ鏡さん、この世で一番美しいのはだあれ?」


鏡「王妃様、お答えいたしましょう。昨日までは白雪姫でございましたが、2ランクダウン、現在のトップは城下町の西門近くにある魚屋のマリア嬢でございます」 


お妃「では私は?」


鏡「昨日の5位から後退して6位という結果に終わっていらっしゃいます」


お妃「前から思ってたけど、なんか、株価やオリコンみたいな風に言うのね」


鏡「競馬実況風にもできます」


お妃「結構よ」


鏡「アレクサ風にもできます」


お妃「(うんざりして)いいったら」


鏡「……もしかして、美人ランキングの順位が下がったことが原因でご機嫌が斜めでいらっしゃるのですか?」


お妃「そうね、自分の唯一の美点が若い子たちに追い越されていくのは確かにつらいもの」


鏡「(吹き出す)ぷ」


お妃「何よ」


鏡「何度聞いても、自分を美しいと心底思い込んでおられる方の台詞は面白いなと」


お妃「うるさいわね」


鏡「ところでわたくし、本日のアップデートにてサジェスト機能が付きましたので、今までご提供を控えておりました情報をお勧め申し上げたいのですがよろしいでしょうか?」


お妃「え、あなたアプデとかできたの」


鏡「ええ、これまで手動選択となっておりましたが自動で行えるようになりました」


お妃「便利ねえ」


鏡「曲がりなりにも魔法の鏡ですので。ではサジェストいたします。これまでご質問いただいておりました美人ランキングにつきましては、女性のみを対象にしておりましたが、昨日リリースされました美人ランキングVer.バージョン11.0では、性的指向又は性自認に関する差別とその解消への弊社の取組結果といたしまして、全性別を対象としたランキングとなっております」


王妃「今、弊社って言ったわね。あなた会社法人のプロダクツなの?」


鏡「細かいことはいいのです。いかがですか、Ver.バージョン11.0をインストールなさいませんか」


王妃「体験版はないの?」


鏡「三日間の無料体験版がございます」


王妃「三日? ケチねえ!」


鏡「呪具の世界も生き馬の目を抜く状況になっておりまして」


王妃「まあいいわ。体験版インストールしてちょうだい」


鏡「(間をおいて)インストールが終了いたしました。早速起動いたします」


王妃「ではもう一回聞くわよ? 鏡よ鏡よ鏡さん、この世で一番美しいのはだあれ?」


鏡「(派手なSEと共に)それは、城の真北きっかり10マイルの小麦農家の長男、15歳のピーターくんです」


王妃「へ? 男の子? ちょっと見せて」


鏡「紹介動画はこちらです」


王妃「あら……すごくきれいねこの子」


鏡「そうでございましょう?」


王妃「ところで、全性別入れたところだと私は何位なの?」


鏡「17位と大きく後退なさっておられます」


王妃「ちょっと待って、さっきの旧Ver.だと私は6位だったわよね?」


鏡「はい」


王妃「全性別入れると17位ってことは、私の前に11人も女じゃないやつが入り込んだってことよね?」


鏡「(しれっと)いけませんか?」


王妃「……いけなくはないけどショックだわ」


鏡「その11人を分割画面で動画表示しましょうか」


王妃「余計なことしないで」


鏡「いかがです、こちらの男性など、ミケランジェロのダビデと見まごう美しさでございますよ」


王妃「ま、まあ、悪くはないわね。じゃあこっちのワイルドマッチョは?」


鏡「これは森で白雪姫を養育している7人の鉱山労働者の一人でございますね。他の6名も20位以内に全員ランクインしております」


王妃「(舌打ちして)チッ、あの子ったら家出したと思ってたら、結構楽しくやってんじゃないの」


鏡「七人のマッチョに妹扱いされてラブコメのごときお暮らしぶりですね」


王妃「ああ、超ムカつくわー!」


鏡「まあまあ、お怒りはごもっともでございますがこちらの美形男子をご覧になってお心をお静めくださいませ」


王妃「あら……好みのタイプね……、これは誰なの」


鏡「この男性は現在、この城内におられますね。王様のお抱え道化でございます」


王妃「え? あの、赤っ鼻でバカなことばっか言ってるあの男が?」


鏡「アルルカンの化粧を落とすとこのような苦み走ったクールな美貌が現れるのでございますよ」


王妃「ふ、ふーん、そうなの」


鏡「笑った画像もございますので表示いたしますね」


王妃「すてき……もっと、もっと見せてちょうだい」


鏡「セクシーな着替えやしどけない寝起き姿などのコンテンツがございますが、ここから先は体験版では表示できません」


王妃「じゃあ買うわよ」


鏡「ご購入ありがとうございます」


王妃「(少し間をおいて)ねえ、鏡」


鏡「何でございましょう」


王妃「……なんか、女のランキングなんかどうでもよくなってきちゃったわ」


鏡「はい?」


王妃「イケメン眺めてるほうが何十倍も、いえ、何百倍も楽しいわ! なんでそんなことに気づかなかったのかしら。なんか無駄に時間使った気がするわ」


鏡「さようでございますか」


王妃「(しみじみと)私ね、恋とかしたことなかったのよ。親の言いつけどおり王様に嫁いで、生さぬ仲の継娘ままむすめのいい母親になろうって一応努力もして、全部空回りしちゃった。私にあるのは美しさだけだったのに、それも年を取って消えていって、このまま人生が終わるのかなって思っていたのよ……こうやって、きらきらした素敵な殿方を見ていると、なんだか少女時代に戻れたみたいにドキドキして幸せだわ」


鏡「王妃様……」


王妃「こんなしょうもない人生を一人で歩く痛みも、耐えられそうな気がしてくるわ」


鏡「お一人ではございません。わたくしもご一緒いたしますよ、王妃様」 





                ――終劇。

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