3Dプリンターと泉の精

/*登場人物:泉の精(♂) 金持ちの娘/




娘「どうしよう!! 私の小間使こまづかいが泉に! ああ、沈んじゃったわ! 誰か! 誰か来て!」


泉の精「こんにちは。僕は泉の精です」


娘「助けに来てくれたのね!」


泉の精「うーんちょっと違うかな」


娘「だったら何の用? 今忙しいのよ」


泉の精「君が落としたのはこの金のお嬢さんですか」


娘「え、何それ」


泉の精「一応、僕らの仕事上の決まり文句だから……よいしょ……ではこの銀のお嬢さんですか」


娘「違うわよ」


泉の精「ではこの生身のお嬢さん?」


娘「そうよ! そいつよ! さっさと返して」


泉の精「君は正直者なので、金と銀のお嬢さんはあげるよ」


娘「え? あ、ありがとう」


泉の精「だけどこのオリジナルは僕が貰っとく」


娘「は? 何言ってんの?」


泉の精「前から思ってたんだよ。生身の女の子落ちてこないかな~って。しかも落ちてきたのが前から目を付けてた子。返すわけないだろ」


娘「何ですって?!」


泉の精「君たちがここを通るたび見てたんだ。彼女、優しいいい子だよね」


娘「そうよ! 自慢の小間使いだわ」


泉の精「君がGL展開をねらってたのも知ってたよ。絶対阻止してやろうと思ってた。キモいよねGLって」


娘「うるせーよ! だいたいお前、泉の精じゃなくて人をおぼらかして尻子玉しりこだま抜くっていう河童かっぱなんじゃねーの?!」


泉の精「僕が河童だったら、ちょっと前に君たちがここで水遊びしてた時に引きずり込んでたよ! でも僕らは泉の精だから、誰かが落としたものしか拾得しゅうとくできないきまりなんだ。君が彼女をふざけて突き飛ばしてくれて本当に良かった」


娘「だったら、職業倫理しょくぎょうりんりのっとんなさいよ! 正直に答えたんだからそいつ返して!」


泉の精「嫌だ。僕が冷たい水の底で、3Dプリンターで金属レプリカ作って落とし主に見せるっていうイミフな仕事をやりながら、何百年ひとりでがんばってたと思ってるんだ。たまにはご褒美ほうびが欲しいってものだよ」


娘「だめよ! 返してよ! 返さないとパパに言いつけて埋め立てしちゃうからね、このきったねえ水たまり!」


泉の精「埋め立てられたら僕は彼女と運命を共にするよ。じゃあね~」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る