窓の外の鳥


*登場人物(名前は任意で入れること)

 飼い主(◇)・・・男性。年齢任意。病床にいる。やさしい。

 犬(○)・・・人間でいえば高校生~二十歳くらいの女子。大型犬。テンション高め。


*本文



◇「カーテンを開けてくれ」


○「はい」


  SE:カーテンを開ける音


◇「窓を開けるのは……君には無理かな」


  SE:窓を開ける音


○「できるのです! ◇様が病院に行って帰ってこない間にいっぱい練習して、できるようになったのです」


◇「そうか、お利口だな」


○「お利口なので撫でて欲しいのです」


  SE:ベッドのきしむ音


◇「よしよし」


○「ずっとこうして撫でていて欲しいのです」


◇「私も、ずっと撫でていたかったよ」


○「きゅううう」


◇「ああ、いい風が吹いている」


○「今日は風が冷たいのですよ」


◇「大丈夫だよ。ああ、水仙が咲いているんだな」


○「お外は今くさいのです。変なド腐れ花が咲いて毒の臭いなのです」


◇「人間には、季節を知らせるとてもいい匂いなんだ」


○「そうなのですか」


◇「そうなんだよ」


  SE:鳥の声


○「◇様は元気にならないといけないので、ゆっくり休まないとだめなのです。クソバカ鳥がうるさいので、窓を閉めようと思うのです」


◇「いい声じゃないか。このまま開けておいてくれ」


  SE:鳥の声


○「(窓の外に向かって)うるせえ死ね噛み殺すぞ、わんわん!」


◇「君の風物に対する口の悪さは私の躾が至らなかったからなんだろうなあ」


◇「至らなくないのです! ○はとてもまっとうなのです」


  SE:鳥の声


◇「ちょっと前まで庭に来ていた片足のキジバトを見なくなった。……食われたのかもしれないな」


○「誰が食ったのですか?」


◇「ああ、多分猫やカラスが美味しくいただいたんだろう」


○「美味しいなら、よいではありませんか」


◇「たしかに。……ああ、死ぬなら私も意味のある死にかたがよかった」


○「意味のある、とはなんなのですか」


◇「例えば、飢饉状態のときに死んで誰かに食べてもらうとか」


○「なぜ食べてもらいたいのですか」


◇「誰かが食べてくれたら、その体の一部になって、私がまだ知らなかった世界を見たり聞いたりできるかもしれない。もしそうなるなら、君に食べてもらうのが一番幸せだ」


○「なぜ○なのですか」


◇「君が大好きだから」


○「◇さまを食べるのは嫌なのです」


◇「はは……私は不味そうだからな」


○「美味しそうでも食べないのです。○はお利口なので知っているので教えてあげるのです、食べたものはうんこになるのですよ! だめです! ◇様が○のうんこになるなんてとてもだめなのです!」


◇「……あのね、一応情緒ってものがあるから、うんこうんこ言うのはちょっと……」


○「○は食べません! 食べません! 絶対に食べませんのです! 」


◇「わかったわかった。わかったから静かにしなさい」


○「こんな話はだめなのです! ○はこうして毎日◇様とお話しして撫でてもらうのです。そうしたら、ふたりともうれしくて、ずっとずっと幸せなのです!」


◇「……そうか」


○「○は◇様が思っているよりもっとたくさんわかっているのです。もっと! もっとたくさん!! だからこういう話はだめなのです! わん! わん!」


◇「声が大きい」


○「だいじなことを教えるときは大きな声でと習ったのです、わん! わん!」


◇「……やれやれ……君はつくづくお利口だね」


○「だから撫でて欲しいのです」


◇「はいはい」


○「気持ちよいのです。幸せなのです」


◇「……今日は君にご馳走を用意させよう。私を食べるよりもずっと美味しいのを」


○「やったあ、なのです!」


◇「私も少しは食べて、元気になるように頑張るよ……うん、頑張らなければ」


○「はい!」


 ――終劇。

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