旅のおみやげ

男「寒いだろ。これ、羽織ってろ」


女「ありがと。秋も終わりね」


男「そう言えば駅前にもクリスマスツリーが飾られてたな」


女「そっか。もうそんな時期なんだ。今年も見たかったな」


男「見に行くか」


女「(力なく笑って)もう無理だから」


男「無理じゃない。さあ、行こう」


女「無茶言わないでよ」


男「車椅子に乗れば大丈夫だろう?」


女「(茶化して)なんでそんなに見せたがるの? 冥土の土産ってこと?」


男「(暗く)そんな言い方はやめろ。さあ、持ち上げるぞ。(力を込めて)よっ」


女「(呆れたように)昔っから強引よねえ、あなたって」


男「まわりが優柔不断なだけだろ」


女「重いでしょ」


男「(寂しそうに)重くない」


女「落とさないでよ?」


男「落とすもんか」


女「ふふ……(間をおいて)どうしたの? 車椅子、そこにあるでしょ? 下ろさないの?」


男「(間。ぼそっと)こうしてると……○○(任意の女性名)の体、温かいな」


女「(弱々しく、精一杯冗談めかして)来月には温かくなくなるわ」


男「(間をおいて、悲しそうに)やめてくれ」


女「(間のあと、寂しげにぽつりと)私、一人で旅立つのがまだ怖いの。だからあなたにそういうこと言ってしまうんだわ」


男「(大きなため息)」


女「甘えてごめんなさい」


男「(しばらく黙ったあと、耐えきれずに嗚咽)」


女「……ごめんなさい」


――終劇。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る