コメディ
おままごと
*登場人物
*演じるうえでの注意
町田はの台詞は男性口調がデフォルトになっているので、女性でキャスティングした場合、ジェンダー的言い回しは変更可。
*以下本文
斉木 「チッ……忙しいっつーのに……」
町田 「あっ、こんにちは藤野社長! どうぞこちらへお掛け下さい! コーヒーでよろしいですか?」
藤野「いや、リーフのダージリンで」
斉木 「町田、こんなやつ、そんなにもてなさなくていいぞ」
町田 「(小声で)課長、藤野社長は我が社の起死回生を図った大型プロジェクトの取引先なんですからもっと……」
斉木 「取引先だろうが何だろうが、構ってくれさえすりゃ何でもいいんだよこいつは」
藤野 「ご挨拶だな、斉木ぃ」
斉木 「で、今日は何の用だ」
藤野 「遊ぼう」
斉木 「今俺は忙しいんだっつーの。見りゃわかるだろう」
藤野 「あるぇえええ? この私を
町田 「(小声)課長! 藤野社長は取引先の……」
斉木 「うるさい、わかってる! ええい、藤野、今日は何して遊ぶんだ」
藤野 「社会の最小単位シミュレーション『ままごと』だ」
斉木 「離婚して家庭が恋しくなったか」
藤野 「いやせいせいしてる。あいつ私の遊びにつきあってくれなかったくせに、よその男とうちのベッドルームで遊んだし」
町田 「(さえぎって、うわずる声で)あっ、あのっ、おままごとって配役はどうお考えなんですか?」
藤野 「今日はな、町田君が夫、斉木が妻、私が間男で
町田 「(被せ気味に)えっ僕もですか?!」
斉木 「奥さん
藤野 「いいじゃん、面白ければ」
町田 「あのー、それってままごとなんですか? 面白いんですか?」
藤野 「ご家庭事情のシミュレーションなんだからちゃんとしたままごとだし、私個人は非常に面白い」
斉木 「仕方ねえなあ……おい、町田、やるぞ」
町田 「やるんですか?!」
斉木 「こいつ、遊びにつきあわないと、あとで弁護士立てて弊社のやることなすこと全部にいちゃもんつけてくるだろうが! さくっと遊んでやってさくっと追い返すぞ!」
町田 「はあ……」
斉木 「(優しくしみじみと)町田、つらいと思うが、やるからにはちゃんとやるんだ。じゃあ行くぞ」
藤野「セリフは演劇じゃなくままごとなんだから全部アドリブだ! では各自10秒役作りの時間を与える! (間をおいて)はい、本番行きまーす。三、二、一、アクション!」
*****〈以下、突然始まる劇中劇〉************
斉木 「(3秒ほど間をおいて、深刻そうに)子どもができたぜ……」
藤野 「(めんどくさそうに)え?! 子ども? ……本当に私の子なのか?」
町田 「(戸惑った感じで、小声)え? もうおままごと、始まってる感じ?」
斉木 「(町田を無視)藤野、お前の子どもだ……俺、この歳だしさ……(泣きそうに)産みたいんだ」
町田 「(小声)課長、なんで女性役なのに俺って言っちゃってんですか?!」
藤野 「(町田を無視、冷たく)……馬鹿言うなよ、斉木」
斉木 「(泣く)旦那には絶対ばれないようにするから!」
藤野 「町田君の子として育てる気か?」
町田 「(小声で)うわー……」
斉木 「(町田を無視)……おう……だからおろせなんて言わないでくれ! な?! 藤野おおおおおぉぉ!(泣き縋って)」
藤野「(小声で町田に向かってせっついて)ほら、町田君、セリフ!」
町田 「(ビビった棒読みで)……わ、わああぁ、妻と間男が托卵を企んでるー」
*****〈劇中劇、ここまで〉************
藤野 「(白けた間をおいて、うんざりしたように)カット。(間を置き、ため息をついて)……おいおい、ちゃんとやってくれよ、町田くーん。楽しいままごとがぶち壊しだよー」
斉木 「(決然と)町田! やると決めたからには中途半端はいかんぞ」
町田 「(納得していない感じで)は、はい……」
藤野 「ところで斉木、今思ったんだけどな、ここはお前に上の子がいたらもっとドラマチックじゃないか?」
斉木 「お、いいな、それ。不倫にかまけた母親にネグレクトされて歪んでいく子ってやつだな」
藤野 「それだ! 冴えてるじゃないか斉木!」
斉木 「よし、町田! ちょっと吉井呼んで来い」
町田 「え、ええ~?!」
――終劇。
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