コメディ

おままごと


*登場人物

 

 藤野ふじの・・・三十代半ばの男性。インテリヤクザ風変人。友達がいなさ過ぎて斉木に事あるごとにウザ絡みして構ってもらっている。


 斉木さいき・・・藤野と同い年の男性(変更不可)。熱血系の現場重視タイプ、やや不憫系。演技力は抜群。藤野には困っている。


 町田まちだ・・・二十代半ば、性別不問。斉木の部下。都会育ちの常識人

 


*演じるうえでの注意

町田はの台詞は男性口調がデフォルトになっているので、女性でキャスティングした場合、ジェンダー的言い回しは変更可。



*以下本文


藤野ふじの 「おい、幼馴染の私がわざわざ来てやったぞ! 斉木さいきぃ!」 

 

斉木 「チッ……忙しいっつーのに……」 

 

町田 「あっ、こんにちは藤野社長! どうぞこちらへお掛け下さい! コーヒーでよろしいですか?」


藤野「いや、リーフのダージリンで」

 

斉木 「町田、こんなやつ、そんなにもてなさなくていいぞ」

 

町田 「(小声で)課長、藤野社長は我が社の起死回生を図った大型プロジェクトの取引先なんですからもっと……」

 

斉木 「取引先だろうが何だろうが、構ってくれさえすりゃ何でもいいんだよこいつは」 

 

藤野 「ご挨拶だな、斉木ぃ」 

 

斉木 「で、今日は何の用だ」 


藤野 「遊ぼう」 

 

斉木 「今俺は忙しいんだっつーの。見りゃわかるだろう」

 

藤野 「あるぇえええ? この私を無碍むげにしちゃっていいのかなぁ?」 

 

町田 「(小声)課長! 藤野社長は取引先の……」 

 

斉木 「うるさい、わかってる! ええい、藤野、今日は何して遊ぶんだ」 

 

藤野 「社会の最小単位シミュレーション『ままごと』だ」 

 

斉木 「離婚して家庭が恋しくなったか」

 

藤野 「いやせいせいしてる。あいつ私の遊びにつきあってくれなかったくせに、よその男とうちのベッドルームで遊んだし」 

 

町田 「(さえぎって、うわずる声で)あっ、あのっ、おままごとって配役はどうお考えなんですか?」

 

藤野 「今日はな、町田君が夫、斉木が妻、私が間男でただれた不倫の泥沼をだな……」 

 

町田 「(被せ気味に)えっ僕もですか?!」 

 

斉木 「奥さん有責ゆうせきで離婚したくせに、えぐいなー」

 

藤野 「いいじゃん、面白ければ」


町田 「あのー、それってままごとなんですか? 面白いんですか?」 

 

藤野 「ご家庭事情のシミュレーションなんだからちゃんとしたままごとだし、私個人は非常に面白い」


斉木 「仕方ねえなあ……おい、町田、やるぞ」

 

町田 「やるんですか?!」

 

斉木 「こいつ、遊びにつきあわないと、あとで弁護士立てて弊社のやることなすこと全部にいちゃもんつけてくるだろうが! さくっと遊んでやってさくっと追い返すぞ!」

 

町田 「はあ……」

 

斉木 「(優しくしみじみと)町田、つらいと思うが、やるからにはちゃんとやるんだ。じゃあ行くぞ」


藤野「セリフは演劇じゃなくままごとなんだから全部アドリブだ! では各自10秒役作りの時間を与える! (間をおいて)はい、本番行きまーす。三、二、一、アクション!」


*****〈以下、突然始まる劇中劇〉************


斉木 「(3秒ほど間をおいて、深刻そうに)子どもができたぜ……」

 

藤野 「(めんどくさそうに)え?! 子ども? ……本当に私の子なのか?」 

 

町田 「(戸惑った感じで、小声)え? もうおままごと、始まってる感じ?」


斉木 「(町田を無視)藤野、お前の子どもだ……俺、この歳だしさ……(泣きそうに)産みたいんだ」 

 

町田 「(小声)課長、なんで女性役なのに俺って言っちゃってんですか?!」

 

藤野 「(町田を無視、冷たく)……馬鹿言うなよ、斉木」 

 

斉木 「(泣く)旦那には絶対ばれないようにするから!」 

 

藤野 「町田君の子として育てる気か?」 

 

町田 「(小声で)うわー……」 

 

斉木 「(町田を無視)……おう……だからおろせなんて言わないでくれ! な?! 藤野おおおおおぉぉ!(泣き縋って)」 


藤野「(小声で町田に向かってせっついて)ほら、町田君、セリフ!」

 

町田 「(ビビった棒読みで)……わ、わああぁ、妻と間男が托卵を企んでるー」


*****〈劇中劇、ここまで〉************ 


藤野 「(白けた間をおいて、うんざりしたように)カット。(間を置き、ため息をついて)……おいおい、ちゃんとやってくれよ、町田くーん。楽しいままごとがぶち壊しだよー」

 

斉木 「(決然と)町田! やると決めたからには中途半端はいかんぞ」

 

町田 「(納得していない感じで)は、はい……」

 

藤野 「ところで斉木、今思ったんだけどな、ここはお前に上の子がいたらもっとドラマチックじゃないか?」 

 

斉木 「お、いいな、それ。不倫にかまけた母親にネグレクトされて歪んでいく子ってやつだな」 

 

藤野 「それだ! 冴えてるじゃないか斉木!」 

 

斉木 「よし、町田! ちょっと吉井呼んで来い」 

 

町田 「え、ええ~?!」 




――終劇。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る