博多駅の立ち食いラーメンとかしわうどん

大分に向かう。

今宵潰される。

その前に最後の晩餐と洒落こもうではないか。


自粛ムードの九州新幹線を降り、特急ソニックの出発を待つ。

小一時間ほどあることを確認して、私はまず一番ホームへと向かった。


博多駅のホームには立ち食いの店が二種類ある。

うどんの方はそう珍しくはないだろうが、ラーメンの方は他にはあまり見ないだろう。

そこで、券売機でビールセットとゆで卵を頼み、暖簾を潜る。

アサヒの缶を受け取り、ゆで卵を一思いにいただく。

長居するなどもっての外である。缶も三分の一を空け、豚骨ラーメンに挑む。

まずは木耳で心を鎮める。焦りは敗北を誘う。

白湯の唸りと麺の歓声がビールを誘い、焼豚がすべてを綴じる。

隣でスープを飲み干す老人二人を横目に、私は半分を胃に収めて店を出る。


これは序章でしかないのだ。


ホームの売店でハイボール二缶を手にし、三番ホームに戦場を移す。

さあ、ここからが本戦だ。腹腔の被弾を確認し、挑む。

出てきたかしわうどんはそれだけで王者の貫禄を醸し、それを一味で受け止める。

深呼吸して手を合わせ、一気呵成にハイボールとともに立ち向かう。

初手、甘辛い鶏肉が足場を崩そうとする。ハイボールで受ける。

次弾、柔らかい麺が脳天に撃ち込まれる。ハイボールで受ける。

本陣、旨味の凝縮した出汁が腹腔を薙ぐ。ハイボールで受ける。

千変万化の攻め手を一つ一つ受け止めつつ、やがて丼を制圧する。

満身創痍の身を以て、手を合わせ深々と頭を垂れる。


好敵手との連戦に満足し、私は青い稲妻に身を委ねた。

そして、その夜、私は酒に完敗を喫した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る