松のやのごちそうハンバーグカレー

明晩私は潰される。

潰されるため(ウィスキーのソーダ割りを)あおるのだ。


大分にて縁あった女性と飲むべく旅立つ。

飲み屋の礼は返さねばならぬ。

さればこそ、今宵は並々ならぬ想いで迎える。

明日はファストフードは望めぬ。

ならば、この一食は決戦だ。


松屋と松のやの間で揺れる。

シュメルクリとカツの間で揺れる。

両者、時間いっぱいの熱戦は、大蒜臭にんにくしゅうの一点で小手返しとなる。


心の字を切り、色欲に敗れたことをジョージアに謝す。

後は己が欲望に忠実に生きるのみ。


帰宅し、小ジョッキを取り出す。

四分の一だけウィスキーを注ぎ、ソーダで満たす。

比率を変えつつ毎晩行う儀式を淡々とこなし、まずは千切りキャベツの上にポテトサラダを開ける。

人参ドレッシングの甘みを口中に敷き詰め、ウィスキーソーダで露払い。

ウィンナーとソーセージで平幕を終え、これより三役となる。


ウィスキーソーダを作り、固唾かたずを飲んで見守る。

盛り塩の代わりに撒かれた炭酸が、口内を清め揃い踏みを終える。


小結は唐揚げ。矢のように鋭く立ち回り、たちまち万雷の拍手に包まれる。

関脇はコロッケ。芋の味が弦を張り、その変幻自在の技に館内は笑いに包まれる。


そして、大関然としたごちそうハンバーグカレーが土俵に上がる。

異色の立ち合いに場内は静まり返る。


そして、激突。


香辛料の辛みが歓声を呼び、力を得た白飯が千人力を奮う。

ハンバーグはそれを受け止め、不動泰山の構えを取る。


十分を越える大相撲に腹腔は満ちに満ち、両者土付く決着はウィスキーソーダを以って祝福に代える。

漬物の弓取りを終え、私はふと思った。


メンチカツだ、これ。

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